中西悟堂

中西悟堂：野鳥保護に生涯を捧げた詩人僧

中西悟堂（なかにしごどう、1895年 11月16日 - 1984年 12月11日）は、日本の野鳥研究家であり、歌人、詩人、そして天台宗の僧侶という多彩な顔を持つ人物でした。文化功労者としても知られ、日本[[野鳥の会]]の創立者として、日本の野鳥保護運動の先駆けとなりました。本名は富嗣（とみつぐ）、悟堂は僧侶としての法名で、他に赤吉（しゃくきち）という筆名も用いました。

生い立ちと出家

1895年、石川県金沢市に生まれた中西悟堂は、幼少期から特異な才能を示していました。祖父は加賀藩士、父は海軍軍楽隊教官でしたが、父の死と母の失踪により、父の兄である中西元治郎の養子となります。幼い頃から四書五経を学び、おもちゃや友人との交流よりも、石板と石筆での遊びを好む内向的な子供でした。

5歳で小学校に入学するも、発育不全で歩行困難だったため、爺やに背負われて通学しました。その後、養父の転居に伴い転校を繰り返し、健康を回復するために寺で修行を積みました。この頃から、鳥に親しむようになり、一種の透視力を得たとされています。

1911年、天台宗深大寺で出家し、「悟堂」の法名を得ました。その後、天台宗学林（現在の大正大学）に進学し、短歌に興味を持ち、詩人との交流を深めます。禅宗の生活や仏教新聞社の手伝いをする中で詩壇に入り、短歌雑誌の編集にも携わりました。しかし、身内の不幸が重なり、放浪の旅に出ます。1920年、島根県の寺院の住職となり、その後、松江市の普門院住職となります。この時期に詩集を出版し、詩人としての才能も開花させました。

野鳥観察の世界へ

1926年、千歳烏山に居を移し、詩壇と決別して本格的に作家を目指し、田園生活を始めます。この頃から、昆虫や野鳥の観察に熱心に取り組み始めました。その後、杉並区の善福寺風致地区に移り、野鳥観察に加え、昆虫や淡水魚の生態観察も行うようになりました。日本各地の山を巡り野鳥観察を重ね、自宅では野鳥を放し飼いにするなど、その行動は注目を集めました。

日本[[野鳥の会]]創立

1934年、中西悟堂は、鳥類学者や文化人らの協力を得て、日本[[野鳥の会]]を創立しました。会の目的は、鳥類愛護の思想の普及と、鳥類研究の推進でした。同年6月には、富士山裾野で初の野鳥観察会（探鳥会）を開催し、会員を増やしていきました。当初の会員は文化人や貴族に限られていましたが、精力的な活動により、会員数は増加し、各地に支部が設立されました。また、同地区に「野鳥村」を作る構想もありましたが、資金の持ち逃げに遭い実現には至りませんでした。

野鳥保護への尽力

中西悟堂は、「野の鳥は野に」という標語を掲げ、自然の中で野鳥を楽しむことを提唱しました。この思想は、仏教的な自然観に根ざしており、万物に命が宿るという考え方が根底にありました。彼は、鳥を飼育するのではなく、自然の中でその姿や鳴き声を楽しむという新たな価値観を広めました。

機関誌『野鳥』を創刊し、編集責任者として、鳥の愛護と保護を一般大衆に訴えました。当初、「野鳥」という言葉自体が一般に浸透していなかったため、「のどり」と読まれることも多かったそうです。

戦後、日本[[野鳥の会]]を再開させ、カスミ網禁止の法制化やサンクチュアリーの設置など、自然保護、野鳥保護活動に尽力しました。鳥獣保護法の制定にも貢献し、日本の野鳥保護運動の礎を築きました。

晩年と業績

1973年には宮中歌会始の召人となり、歌人としての功績も認められました。

1984年、転移性肝臓癌のため88歳で逝去。その生涯を野鳥保護に捧げました。

中西悟堂は、数多くの著作を残し、日本の野鳥研究と保護運動の発展に大きく貢献しました。彼の著書は、野鳥観察の楽しさや自然保護の重要性を多くの人々に伝え、その思想は現代にも受け継がれています。

主な著書

『野鳥と生きて』
『定本野鳥記』
『愛鳥自伝』
『野鳥開眼―真実の鞭』
『詩集東京市』
『詩集花巡礼』
『詩集武蔵野』
『虫・鳥と生活する』
『野鳥と共に』
『野鳥ガイド陸鳥篇』
『野鳥記』
『鳥を語る』

参考文献

『悟堂追憶』
岡茂雄「『野鳥』創刊のお手伝いとそれから」『本屋風情』平凡社、1974年、208-218頁。