中西龍

中西龍：NHKアナウンサーからフリーへ、独特の語り口で魅了した声の職人

中西龍（なかにし りょう）は、1928年6月16日生まれ、1998年10月29日没の日本の元NHKアナウンサー、ナレーターです。東京都出身。

NHK時代：確かな技術と個性あふれる表現

明治学院大学英文科卒業後、1953年にNHKに入局。熊本、鹿児島、旭川、富山、名古屋、大阪、東京と各地で勤務しました。同期の鈴木健二氏など、多くの才能と触れ合う中で、中西氏は独特の、濁りのある落ち着いた声質と、淡々とした語り口を武器に、様々な番組で活躍します。

担当した番組は多岐に渡り、『NHKのど自慢』や『ひるのプレゼント』といった司会業から、『文五捕物絵図』やNHK大河ドラマ『国盗り物語』などの時代劇ナレーション、そして『きらめくリズム』や連続テレビ小説の語り手など、その才能は幅広いジャンルで発揮されました。『みんなの茶聞』のような、より親しみやすい番組にも出演し、高い人気を得ました。

さらに、中西氏の活動はNHKの枠を超えていました。美空ひばり氏の懇願を受け、民放番組の収録に協力しただけでなく、ライブテープにも参加するなど、その人脈の広さもうかがえます。1970年代後半には、NHKラジオ第2放送の気象通報も担当。週一度の泊勤務の際に、その落ち着いた声で、正確な情報を伝えていました。

彼の特徴として、一人称に「私」ではなく「当マイクロフォン」を使用していた点が挙げられます。この独特な表現は、中西氏のプロ意識の高さと、番組への真摯な姿勢を象徴するものでした。

特に有名なのが、1977年から1991年まで放送されたNHKラジオ第1放送『にっぽんのメロディー』のオープニングナレーションです。「歌に思い出が寄り添い、思い出に歌は語りかけ、そのようにして歳月は静かに流れていきます」という、しみじみとした言葉は多くのリスナーの心に深く刻まれました。このナレーションは、アナウンサーらしからぬ、感情豊かな語り口でありながら、歌謡番組に絶妙にマッチ。番組の人気にも大きく貢献しました。ほぼ同じナレーションで締めくくられたテレビ番組『きらめくリズム』も、高い人気を誇りました。

1980年前後には、毎年暮れに放送されていた明智小五郎ものの連続ラジオドラマでも活躍。広川太一郎氏演じる明智に次ぐ、第二主役とも言える存在感を放ちました。原作当時の流行歌を織り込む場面では、「ここでしばし、にっぽんのメロディーの時間です」といった、脚本に合わせた遊び心のある演出も見られました。

フリー転身後：更なる活躍の場

1984年6月16日、NHKを希望退職。フリーランスとして活躍の場を広げます。『にっぽんのメロディー』を始め、フジテレビ『鬼平犯科帳』や数多くのCMナレーションなどを担当しました。

彼の落ち着いた声は、時代劇から歌謡番組、そしてCMまで、幅広いジャンルで求められ続けました。その確かな技術と、独特の語り口は、多くの視聴者に愛され、多くの番組に彩りを添えたのです。

晩年と多様な活動

1998年10月29日、脳梗塞のため死去。

中西氏はアナウンサー、ナレーターとしての活動以外にも、数々の著書を出版しています。『ことばつれづれ』や『続・ことばつれづれ』といったエッセイ集から、『にっぽんのメロディー放送詞文集』、『俳句の手帖』といった専門書まで、多岐にわたる著作活動からも、その教養の深さと幅広い関心がうかがえます。

中西龍のレガシー

中西龍は、独特の声質と表現力、そして誠実な語り口で、多くのリスナー・視聴者の心に深く刻まれました。彼の残した数々の番組は、多くの人の記憶に今も鮮やかに残っており、日本の放送史に大きな足跡を残したと言えるでしょう。その落ち着いた声と、丁寧な言葉選びは、後進のアナウンサーやナレーターたちにも大きな影響を与え続けています。

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