中部リトアニア共和国

中部リトアニア共和国とは

中部リトアニア共和国（ポーランド語: Republika Litwy Środkowej、リトアニア語: Vidurio Lietuvos Respublika）は、1920年代に東ヨーロッパに存在した、国際的には承認されなかった国家です。日本語では中央リトアニア共和国や中央リトアニアとも呼ばれます。

この地域は、第一次世界大戦後の混乱期に、ポーランドとリトアニアの間の緩衝地帯として、約18ヶ月間存続しました。しかし、その法的地位は曖昧で、ポーランドの傀儡国家であるという見方や、民族構成の複雑さから、その存在意義は今日まで議論されています。

建国の背景

1920年、ポーランド軍のルツィアン・ジェリゴフスキ将軍が率いる部隊が、ヴィルノ（現在のヴィリニュス）に侵攻したことが建国のきっかけでした。ヴィルノはかつてのリトアニア大公国の首都であり、独立直後のリトアニア共和国もその領有を主張していました。このため、ポーランドとリトアニアの間に紛争が生じ、中部リトアニアは両国の緩衝地帯として成立することになりました。

しかし、ポーランド軍の侵攻は、リトアニアにとっては侵略行為であり、中部リトアニアはポーランドの支援を受けた傀儡国家と見なされることもありました。歴史家の中には、中部リトアニアを「要件を満たさない国家」や「人工的に作られたもの」と表現する者もいます。

民族構成の複雑さ

この地域の民族構成は、当時の人口調査の信頼性が低いこともあり、長年にわたり議論されてきました。19世紀末のロシア帝国の調査では、ベラルーシ人が多数を占めていましたが、20世紀初頭のドイツの調査ではポーランド人が多数派とされています。

この違いは、調査方法や民族の定義の違いに起因するものであり、当時の住民の中には、自らをポーランド人でもありリトアニア人でもあると認識している者もいました。特に、リトアニアの上層階級の中には「生まれはリトアニア人、国籍はポーランド人」と自称する者もいたと言われています。

ポーランドとの合併

1922年1月、中部リトアニアで選挙が行われ、ポーランド人が多数を占めた結果、ポーランドへの編入が決定しました。この編入は、ポーランド議会によって承認されましたが、リトアニアはこれを認めず、あくまで「境界線」として扱いました。

国際社会も、この編入を承認しましたが、1931年のハーグ国際法廷は、ポーランドによる編入の経緯は国際法に反すると判断しています。しかし、編入自体は国際的に承認されており、リトアニアとポーランドの関係は、その後も複雑な状態が続きました。両国間の国交が樹立されたのは1938年のことです。

第一次世界大戦後の状況

第一次世界大戦後、ポーランドとリトアニアは独立を果たしましたが、ヴィルノの領有権をめぐって対立が深まりました。ポーランドは、ヴィルノにポーランド人が多く居住していたことを理由に、この地域を自国の領土と主張しました。

一方、リトアニアは、ヴィルノがリトアニア大公国の歴史的首都であることから、自国領土として正当な権利を持つと主張しました。リトアニアは、住民がポーランド語を話していたとしても、彼らはポーランド化されたリトアニア人であると主張しました。

ポーランド国内でも、ポーランド人の単一民族国家を求める勢力と、ポーランド人以外の民族も含む連邦国家を求める勢力の間で意見が分かれていました。こうした状況が、中部リトアニアの成立とポーランドへの編入という結果につながりました。

ポーランド・リトアニア戦争と中部リトアニアの成立

第一次世界大戦終結後、ポーランド・ソビエト戦争が勃発し、ヴィルノの支配権もめまぐるしく変わりました。1920年、ソヴィエト・ロシアはリトアニアとの間で講和条約を結び、ヴィルノ地域をリトアニア側に引き渡すことに合意しました。

しかし、ポーランド軍のジェリゴフスキ将軍は、ソヴィエト赤軍を追撃する中で、ヴィルノを占領しました。この行動は、ポーランド政府の公式見解とは異なるとされましたが、実際にはユゼフ・ピウスツキの意向を受けたものでした。

ジェリゴフスキは占領した地域を直接ポーランドに編入するのではなく、中部リトアニア共和国を建国しました。これは、リトアニアがポーランドとの連邦案を拒否したことが背景にありました。リトアニア政府は、首都機能をカウナスに移し、中部リトアニアとの紛争が数週間にわたって続きました。

中部リトアニアの政治体制

1920年10月、ジェリゴフスキは臨時政府を設置し、裁判所や警察組織を整備しました。1921年には、住民への市民権付与が行われました。国旗は、ポーランドの象徴である白鷲と、リトアニアの象徴であるヴィーティス（白馬に乗った騎士）を組み合わせたものでした。

国際連盟は調停に乗り出し、ポーランドとリトアニアの間で和平交渉が行われました。この交渉の中で、中部リトアニアをリトアニア連邦に組み込むという案が提示されましたが、リトアニアがポーランドの代表団の参加を拒否したため、交渉は決裂しました。

ポーランドへの編入とその後の影響

ブリュッセルでの和平交渉が失敗に終わると、中部リトアニアではポーランドによる選挙向けのプロパガンダが展開されました。リトアニア語の新聞の発行が停止され、選挙妨害も行われました。

1922年、ポーランド議会は中部リトアニアのポーランドへの編入を承認しました。リトアニアは、この編入を認めず、ポーランドによる「占領」とみなしました。リトアニアはヴィルノを自国の憲法上の首都と定め、ヴィルノ問題は両国間の領土問題として長く残りました。

その後

第二次世界大戦が勃発すると、ヴィリニュス地域を含むポーランド東部はソ連に占領され、その後リトアニアに返還されました。リトアニアはソ連に編入されましたが、1990年に独立を回復しました。現在では、ヴィリニュスがリトアニアの首都であることが国際的に認められています。

ポーランドの歴史家の中には、もしポーランドがソビエトとの戦争に勝利していなければ、リトアニアはソヴィエトに侵攻され、戦間期の独立はなかっただろうと主張する人もいます。この見解は、中部リトアニアの成立が、リトアニアの独立維持にも一定の役割を果たした可能性を示唆しています。

中部リトアニア共和国は、その短命さにもかかわらず、複雑な民族問題と国家間の対立を象徴する出来事として、歴史の中にその名を刻んでいます。

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