中野致明

中野致明：佐賀を支えた実業家の軌跡

中野致明（1848-1917）は、明治から大正時代にかけて活躍した日本の実業家です。佐賀県を拠点に、銀行、商業団体、電力会社など、幅広い分野で重要な役割を果たし、近代佐賀の経済発展に大きく貢献しました。

佐賀での生い立ちと銀行経営

1848年、佐賀藩家老の子として生まれた中野致明は、幼少期から藩政の中枢に触れて育ちました。明治維新後、旧佐賀藩士や旧藩御用商人らによって設立された第百六国立銀行（後の佐賀百六銀行）に、1883年、支配人として入社。その後、取締役を経て頭取に就任します。

銀行経営手腕に加え、中野は類まれな人脈と交渉力を持っていました。その手腕は、1896年の佐賀貯蓄銀行設立においても発揮されます。初代頭取に就任し、銀行経営の基盤を確立しました。佐賀百六銀行頭取と佐賀貯蓄銀行頭取を兼務するなど、佐賀の金融界において絶大な信頼を得ていました。

佐賀経済界の中心人物として

中野致明は銀行経営にとどまらず、佐賀の経済発展に貢献しました。1897年の佐賀商業会議所創立に参画し、翌年には2代会頭に就任。佐賀の商業活動を牽引しました。さらに、厚生舎（士族女子の授産施設）の舎主や、佐賀セメント、肥前漁業などの重役を歴任。1901年には佐賀馬車鉄道（後の佐賀電気軌道）の発起人となり、県内企業の育成に尽力しました。

電力事業への参入と九州電灯鉄道

中野致明の活躍は電力事業にも及びます。1906年、旧鹿島藩出身の実業家、牟田万次郎らと広滝水力電気（後の九州電気）の設立に参画し、社長に就任。経営実務は牟田が担いましたが、中野は佐賀財界を代表する立場として、企業の成長を支えました。

1910年には九州電気が改組され、中野は引き続き社長を務めます。1912年、九州電気が博多電灯軌道と合併し九州電灯鉄道となると、中野は取締役となりました。この合併において中野は、福澤桃介らと交渉し、本社を福岡市に置くことを決定。その際、伊丹弥太郎を社長に推薦するなど、辣腕を振るいました。

晩年と遺産

1916年、実業界から引退し、佐賀百六銀行と佐賀貯蓄銀行の頭取を吉田久太郎に譲ります。翌1917年、70歳で死去しました。

中野致明は、佐賀の金融・経済発展に多大な貢献をした人物です。その功績は、現在も佐賀の経済界に影響を与え続けています。また、次男である山口亮一は洋画家として活躍し、佐賀美術協会の創設メンバーの一人でした。中野致明は同協会の後援会会長を務め、佐賀財界を挙げて支援しました。これは、中野致明の経済活動のみならず、文化活動への貢献も示しています。

まとめ

中野致明は、単なる実業家を超えた存在でした。佐賀の経済発展を牽引し、多様な企業の育成に尽力しただけでなく、地域社会の発展にも貢献しました。彼の生涯は、近代日本の地方経済発展における、実業家の役割を如実に示しています。彼の功績は、今もなお佐賀の人々の記憶に深く刻まれています。

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