丸山工作

日本の生化学界に多大な貢献をした丸山工作（まるやま こうさく）は、1930年6月16日に東京府で生を受けた。筋肉の収縮という生命現象の根幹に関わる仕組みを分子レベルで解き明かすことに生涯を捧げ、教育者としても大学行政においても重要な役割を果たした人物である。

生い立ちと学歴

丸山は、作家として知られる丸山義二を父に持ち、ドイツ文学者の丸山匠を弟に持つ家庭に育った。旧制の東京府立第四中学校（現在の東京都立戸山高等学校）を経て、武蔵高等学校 (旧制)に進学。1953年に東京大学理学部動物学科を卒業後、同大学院博士課程に進んだが、1956年に中退し、研究者の道を歩み始めた。

研究者としてのキャリアと主要な業績

大学院中退後、東京大学教養学部助手として研究キャリアをスタートさせた。その後、1962年に理学部助手、1965年には教養学部助教授へと昇進した。1972年には京都大学理学部教授に就任し、1977年からは千葉大学理学部教授として研究教育活動を展開した。

丸山の研究の中心は、筋収縮のメカニズムであった。特に、アクチンやミオシンといった主要なタンパク質がどのように相互作用し、力が生み出されるのか、その調節機構の解明に注力した。この研究過程で、アクチンフィラメントに結合する重要なタンパク質であるβアクチニン（後のα-アクチニンの一部と判明）を1965年に発見。さらに、筋細胞内に存在する巨大な弾性タンパク質であるコネクチン（現在のタイチン）の発見にも貢献した。これらの発見は、筋収縮の調節機構や筋細胞の構造理解において画期的なものであり、その後の研究に大きな影響を与えた。

これらの卓越した研究成果は高く評価され、1966年に日本生化学会奨励賞、1971年に日本動物学会賞を受賞。さらに1994年には朝日賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝いた。また、科学技術分野における功績が認められ、1996年に紫綬褒章、そして2003年には瑞宝重光章を受章している。

教育・大学行政への貢献

千葉大学教授を務めていた期間中、1994年から1998年まで同大学の学長を務めた。学長として、日本の大学教育改革にも意欲的に取り組み、1998年には全国に先駆けて、高校からの「飛び入学」制度を導入し、多様な学生の受け入れと教育の機会拡大を図った。また、大学入試センターの活動にも深く関与し、所長を務めた後、2001年には理事長に就任するなど、日本の大学入試制度のあり方にも影響を与えた。

学会および学外での活動

学術界においても、丸山は指導的な役割を果たした。1995年から1998年まで日本動物学会の会長を務め、学会の発展に貢献した。また、1991年から1994年まで日本学術会議の会員として、科学政策に関する提言や審議にも携わった。さらに、2003年まで科学技術事業団（現在の科学技術振興機構）の戦略的創造研究推進事業（さきがけ21）において「形とはたらき」領域の総括を務めるなど、最先端の研究領域の推進や若手研究者の育成にも尽力した。

科学啓蒙と著作活動

丸山は、専門的な研究を行う傍ら、科学の面白さを広く一般に伝えることにも情熱を傾けた。生化学、分子生物学、筋肉などに関する数多くの単著や共編著を執筆しており、『筋肉のなぞ』（岩波新書）、『分子生物学入門』（講談社ブルーバックス）、『生化学の建設者たち』など、啓蒙書から専門書まで多岐にわたる。これらの著作は、多くの学生や一般読者に生命科学への興味を持つきっかけを与えた。また、海外の優れた科学書や人物伝の翻訳も数多く手がけ、日本の学術界に新たな知見を紹介する重要な役割を果たした。長男の丸山敬も薬理学者として埼玉医科大学教授を務めている。

結び

生化学者としての独創的な研究、教育者・行政者としての大学改革への貢献、そして科学啓蒙家としての活動など、丸山工作の業績は多岐にわたる。日本の生命科学の発展に不可欠な足跡を残し、多くの人々に科学の魅力と重要性を伝えた。2003年11月19日にその生涯を閉じたが、彼の残した研究成果、教育への情熱、そして著作を通じて、その影響は今もなお受け継がれている。

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