武蔵高等学校 (旧制)

旧制武蔵高等学校：日本の私立教育史における先駆者

1921年（大正10年）、東京府北豊島郡中新井村（現在の東京都練馬区豊玉上）に設立された旧制武蔵高等学校は、日本の私立教育史において特筆すべき存在です。略称は「武高」。実業家・根津嘉一郎の私財を投じた根津育英会によって設立された私立の旧制7年制高等学校として、日本初を誇ります。

設立の背景：時代の潮流と根津嘉一郎の意志

武蔵高校の設立は、大正期の高等教育改革という時代の流れと、根津嘉一郎の強い教育への意志が合致した結果でした。1917年の臨時教育会議で私立高校設立が認められ、1918年の改正高等学校令で7年制高校の設立が可能になったことが、設立の重要な背景となります。

根津は、フランスのリセやドイツのギムナジウムのような、社会の中核を担う人材育成を目的とした学校設立を構想していました。この構想には、本間則忠や平田東助、一木喜徳郎、岡田良平、山川健次郎、北条時敬といった錚々たるメンバーからの助言や支援が得られました。彼らの意見を踏まえ、1919年末には「優秀な小学校卒業生を入学させ、理想的な教育を施し完全な育成を期するため、出来る限り長期にわたって在学させることを必要とする」という結論に至り、7年制高校の設立が決定しました。

設立と発展：少数精鋭主義と高度な教育

当初「東京高等学校」として設立申請されたものの、官立高校との重複を避けるため「武蔵高等学校」と命名されました。この校名には、平和主義を込めた「武をおさめ文を崇ぶ」という願いが込められていたと言われています。

1922年4月17日、尋常科79名で開校。尋常科4年と高等科3年の7年間一貫教育を標榜し、高等科からの入学はごくわずかでした。各学年40名程度の少数精鋭主義を採用。教員は尋常科・高等科を区別せず、生徒に早期から高度な知的刺激を与える教育が展開されました。

初代校長の一木喜徳郎は語学教育を重視し、「東西文化融合のわが民族使命を遂行し得べき人物を造ること」「世界に雄飛するにたえる人物を造ること」「自ら調べ自ら考へる力を養うこと」という「三理想」を掲げました。これは、実際には初代教頭の山本良吉が中心となって策定されたものであり、武高の教育理念の礎となりました。

山本は厳格なスパルタ教育を推進し、高い学力水準を維持。東京帝大への進学率は一高を上回ることもありました。また、夏期には「山上学校」や「海浜学校」といった校外学習も実施されました。

新制への移行：武蔵大学・高校・中学への発展

第二次世界大戦後、学制改革により旧制高校の存続が危ぶまれる中、武蔵高校は新制学校への移行を迫られました。当初は、成蹊・成城・学習院と共に「東京連合大学」設立が構想されましたが、頓挫。最終的に、新制武蔵大学（経済学部のみ）、武蔵高等学校、武蔵中学校への移行が決定しました。1950年3月、22期生の卒業をもって旧制武蔵高校は閉校しました。

旧制武蔵高校の教員の多くは新制の武蔵高校・中学に籍を移し、同窓会も新制武蔵高校に継承されました。そのため、旧制武蔵高校の精神は、武蔵大学よりもむしろ武蔵高校・中学に継承されているとみなされています。しかし、大学と高校・中学の密接な関係はその後も続き、「三理念」や山上学校・海浜学校といった伝統も受け継がれています。

校地と施設：歴史的建造物と伝統

武蔵高校の校地は、根津育英会によって購入された現在の武蔵大学・武蔵高校・中学の江古田キャンパスです。開校当初は本校舎が未完成でしたが、寄宿舎「慎独寮」や本館、運動場などが順次建設されました。また、夏期校外学習のための「鵜原寮（海浜学校）」や「青山寮（山上学校）」なども整備されました。

戦災で一部施設が焼失するも、本館や講堂などは現在も使用されています。旧制武蔵高校の伝統は、校地や建物、教育理念などを通して、現在も受け継がれています。

著名な卒業生・教員、創立者根津嘉一郎と初代教頭山本良吉

武蔵高校は、多くの著名な卒業生や教員を輩出しました。創立者である根津嘉一郎は、財政面だけでなく、教育理念にも深く関わっていました。初代教頭であった山本良吉は、スパルタ教育を推進し、武高の教育理念の確立に大きく貢献しました。彼の教育理念は、現在も武蔵高校・中学の教育に影響を与えています。

まとめ：伝統と革新の継承

旧制武蔵高等学校は、時代の変遷の中で、独自の教育理念と厳しい教育によって多くの優秀な人材を育成しました。その歴史と伝統は、新制武蔵大学、武蔵高等学校、武蔵中学校へと受け継がれ、現在も発展を続けています。武蔵高校の歴史を知ることは、日本の教育史を考える上で重要な意味を持つでしょう。

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