丸越

丸越百貨店：金沢の地に花開いた百貨店史

かつて石川県金沢市にその名を轟かせた丸越百貨店。その歴史は、昭和初期、老舗製茶業を営む林屋亀次郎氏によって武蔵ヶ辻に建設されたビルに三越金沢店が招致されたことから始まります。高級品から中級品を扱う三越金沢店でしたが、地元百貨店である宮市大丸の積極的な大衆営業戦略の前に、わずか5年で撤退を余儀なくされました。

この撤退劇は、林屋氏にとって大きな転機となりました。三越への保証金支払いに窮した林屋氏を、宮市大丸が支援。その結果、1935年9月、三越金沢店跡地に丸越百貨店が開業しました。この時、林屋氏の優れたビジネスセンスと、宮市大丸との連携が、新たな百貨店の誕生へと繋がったのです。

創業からわずか2年後、丸越は積極的な多店舗展開に乗り出します。1937年4月、高岡市に初の支店を開業。当初は繁華街への出店を計画していましたが、地元商店街の反対運動により、別の立地を選択せざるを得ませんでした。しかし、この困難を乗り越え、丸越は着実にその地盤を固めていきます。

翌年には、新潟市にも進出。経営難に陥っていた萬代百貨店を傘下に収め、合併により新潟店を開業。こうして、わずか3年の間に石川、富山、新潟の3県に店舗を展開する百貨店チェーンへと成長を遂げました。

しかし、太平洋戦争の勃発と戦時統制の強化は、丸越の成長に影を落とします。1943年12月、競合他社だった宮市大丸と合併し、「大和」として新たなスタートを切ることになりました。合併後、旧丸越金沢本店は「大和武蔵店」と改称されました。

戦後、大和武蔵店は軍需工場を経て、1952年7月、林屋氏によって再び百貨店として営業を再開。そして翌年9月、かつての名を復活させ、「丸越百貨店」として生まれ変わりました。

この再興劇には、政治的な側面も垣間見えます。1953年の参議院議員選挙で、創業者林屋亀次郎氏が現職大臣として再選を目指した際、当時の大和社長・井村徳二氏が対立候補として立候補。両者の激しい選挙戦は、「武蔵」「大和」両百貨店名にちなんで「内灘沖会戦」と呼ばれ、林屋氏の落選という波乱をもたらしました。

その後も、伊藤忠商事や名鉄百貨店との資本提携など積極的な経営戦略を展開した丸越でしたが、1973年8月、社名を「金沢名鉄丸越百貨店」に変更。そして同年10月、市街地再開発事業に伴い、新たな店舗へ移転。同時に、店名も変更され、丸越百貨店としての歴史に幕を閉じました。

丸越百貨店は、その栄枯盛衰を通して、昭和時代の日本の百貨店業界、そして金沢の商業史における重要な一ページを刻みました。三越との関わり、宮市大丸との合併、戦後の再興、そして名鉄との提携など、その歴史はドラマチックで、現代に生きる私たちに多くの教訓を与えてくれます。 創業者林屋亀次郎氏の経営手腕、そして激動の時代を生き抜いた人々の努力は、今なお語り継がれるべきものです。また、高岡店や新潟店といった地方への展開も、当時の商業戦略を考える上で重要な要素と言えるでしょう。丸越百貨店の歴史は、単なる百貨店の歴史ではなく、時代の変化と人々の生き様を映し出す鏡と言えるのかもしれません。

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