久保園晃

久保園 晃（くぼその あきら、1930年5月6日 - 2016年12月26日）は、日本の宇宙航空分野において先駆的な役割を果たしたエンジニアです。戦後の混乱期から日本の宇宙開発黎明期を経て、国際協力が本格化する時代まで、その中心で多大な貢献をしました。

生い立ちと初期のキャリア

久保園氏は1930年、中国の瀋陽市で生を受けました。終戦後、故郷である鹿児島県日置郡伊集院町（現在の薩摩川内市）へ引き上げ、旧制第七高等学校を経て、鹿児島大学文理学部物理学科で学びました。大学卒業後の1953年には、運輸省の運輸技術研究所航空部に入所し、航空機の風洞実験など、航空技術の基礎となる専門知識を習得しました。

その後、1955年に新三菱重工業（現在の三菱重工業）の名古屋航空機製作所へ活躍の場を移します。技術部の空力研究課や電子技術課、飛翔体基礎設計課などで、航空機の実験や設計に深く関わり、日本の戦後航空機産業を代表する存在である国産旅客機YS-11の開発にも重要な役割を果たしました。

宇宙開発事業団（NASDA）での活躍

1970年、日本の宇宙開発が本格化する中で、久保園氏は宇宙開発事業団（NASDA、現在の宇宙航空研究開発機構 JAXA）へ転じました。ここでは、日本の宇宙開発を推進する上で極めて重要な様々な役職を歴任します。ロケット・システムグループ、システム計画部、そして初代スペースシャトル利用推進室長、国際部長、打上げ管制部長、種子島宇宙センター所長などを経て、最終的には宇宙環境利用・国際関係担当理事という要職に就任しました。

NASDA在職中の主な業績は多岐にわたります。特に、日本の大型ロケット開発における画期的な存在であるH-Iロケットの初号機打上げにおいては、打上げ主任としてその成功を指揮しました。また、日本の宇宙実験をスペースシャトルで実現するため、アメリカ航空宇宙局（NASA）との根気強い交渉を進め、実験機器とスペースシャトル間の技術的な調整役も担いました。日本人宇宙飛行士の募集、選抜、そして訓練体制の確立にも深く関与しています。

さらに、国際宇宙ステーション計画（ISS）が構想段階にあった初期の頃から参画し、日本がISSに独自の実験棟「きぼう」（日本実験モジュール JEM）を設置するための開発・利用・運用に関わるNASAとの協定締結を主導しました。

これらの日本における宇宙開発推進への貢献、特に国際協力の分野での尽力は、海外でも高く評価されました。その証として、1992年4月には、当時のNASA長官リチャード・トゥルーリー氏より、日本人としては斎藤成文氏に次いで2人目となる「国際宇宙協力感謝状」が贈呈されています。

退任後の活動と社会貢献

1992年に宇宙開発事業団理事を退任した後も、久保園氏は宇宙航空分野への貢献を続けました。有人宇宙システム株式会社の代表取締役社長（1996年まで）や同社の特別顧問（1998年まで）を務め、日本の有人宇宙技術開発を支えました。

また、宇宙航空関連の事典の執筆を通じて専門知識の普及に努めるとともに、日本モデルロケット協会の理事や日本宇宙少年団の相談役として、次世代を担う若者たちへの宇宙開発に関する啓発活動にも情熱を注ぎました。晩年には、日本の宇宙開発黎明期の象徴であるペンシルロケットのレプリカを日本航空協会航空会館に寄贈し、歴史を後世に伝える活動も行っています。

郷土である鹿児島県への深い愛情も持ち続け、鹿児島県知事から「薩摩大使」に任命され、国内外で郷土の魅力を紹介する役割も担いました。

久保園氏は専門家向けの著書として『プロジェクトエンジニアリングハンドブック』（共著）を出版しているほか、スペースシャトルや宇宙開発の動向に関する複数の学術論文も発表しており、研究者・技術者としての側面も持ち合わせていました。

日本の宇宙開発の基盤を築き上げ、その国際的な地位向上に多大な功績を残した久保園晃氏は、日本の宇宙航空史において欠かせない人物として記憶されています。

もう一度検索