久保木清淵

久保木清淵：地域に根差した朱子学者

久保木清淵（くぼき せいえん）は、宝暦12年（1762年）に下総国香取郡津宮村（現在の千葉県香取市津宮）に生まれ、文政12年（1829年）に68歳で没した江戸時代後期の朱子学者です。竹窓・縑浦老農と号し、字は蟠龍・仲黙、通称は新四郎・太郎右衛門と称しました。代々名主を務める家柄に生まれ、地域社会の発展にも貢献しました。

学問への情熱と教育活動

幼少期より学問に励み、11歳で地元の寺の住職であった松永北溟に師事しました。北溟は林家の門下で朱子学に精通しており、清淵の学問の基礎を築きました。19歳で北溟が亡くなった後、父から江戸への遊学を勧められますが、彼は父への孝行を優先し、郷里に留まって学問に励みました。その後、江戸へ旅行することはありましたが、生涯を通じて郷里を拠点に教育活動に力を注ぎました。

清淵は、自宅に息耕塾を開き、子息とともに多くの弟子を育成しました。伊能忠敬も自身の孫を清淵に託すなど、彼の教育者としての能力を高く評価していました。また、師である北溟が志半ばで終わった『孝経』註釈の復元にも尽力し、享和2年（1802年）に『補訂鄭註孝経』を完成させました。この著作は、伊能忠敬の序文を得て出版され、彼の名声は広く知られるようになりました。

伊能忠敬との深い親交

久保木清淵は、同郷で17歳年長の伊能忠敬と深い親交がありました。忠敬は清淵の才能を高く評価し、寛政5年（1793年）には二人で上方に旅行しています。この旅行の記録は、両者の人物像を今に伝える貴重な資料となっています。また、忠敬が日本地図作成事業に着手すると、清淵は地図の序文草案作成や沿海実測録の浄書などを担当し、その完成に大きく貢献しました。

地域社会への貢献と晩年

清淵は、名主としての仕事にも熱心に取り組み、地域社会の発展に貢献しました。津宮村は近隣の佐原村などと組合を結成しており、当時佐原村の名主であった伊能忠敬とも協力して地域運営に尽力しました。文化5年（1808年）には、水戸藩の小宮山昌秀の要請で、宮本茶村とともに水戸領延方の郷学で講師を務めました。

文政12年（1829年）、68歳で生涯を閉じました。墓碑は小宮山昌秀によって記されましたが、清淵の弟子であり伝記を編纂した清宮秀堅は、忠敬の地図作成への貢献はあくまで友人としての協力であり、儒学者・教育者としての業績を強調すべきと主張しました。清淵の学問と教育への情熱、そして地域社会への貢献は、後世に大きな影響を与えました。

主な著作

『補訂鄭註孝経』（享和2年（1802年））
『古文孝経独見』（文政6年（1823年））

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