久坂部羊

久坂部羊 - 医療と文学の交差点

久坂部羊（くさかべ よう）は1955年に大阪府堺市で生まれた日本の小説家、推理作家、そして医師である。医師としてのキャリアは豊富で、大阪大学医学部卒業後、外科および麻酔科で研修を受けてから、さまざまな医療機関で勤務。その後、サウジアラビアやオーストリア、パプアニューギニアの在外公館で医務官を務めた。帰国後は在宅医療に従事しながら、同人誌『VIKING』での執筆活動を行い、2003年に小説『廃用身』で作家デビューを果たした。

医療をテーマにした作家として

彼の小説は、医療のリアルな側面を描き出すことで読者に衝撃を与える。特にデビュー作の『廃用身』は医療界隈で話題となり、2作目の『破裂』では「医者は、三人殺して初めて、一人前になる」という衝撃的な帯がつけられた。この作品は現代版『白い巨塔』との評価も受け、医療崩壊や医師の苦悩を率直に描写している。

2014年には『悪医』が第3回日本医療小説大賞を受賞し、さらに2015年には『移植屋さん』で上方落語台本募集の優秀賞を受賞するなど、医療に関するテーマを追求し続けている。彼の作品には、医師としての経験が色濃く反映されており、現場の実情を反映した内容が多い。

医療制度への批判と私生活

久坂部は医師としての経験から、医療制度や労働環境について厳しい意見を持っている。「医師の勤務が労基法に違反している云々は、現場の医師にとっては寝言に等しい」といった言葉は、その代表的な発言である。また、彼は私生活においても既婚者であり、息子と娘が二人いる家庭を持っている。父親も医師だった影響もあり、医療に対する思い入れは非常に深い。

文学の変遷と影響

若い頃はドストエフスキーや三島由紀夫といった純文学に影響を受けていたが、40歳を過ぎるころにはエンターテインメント性の高い大衆小説にも関心を寄せるようになった。高村薫や桐野夏生の作品を読み、「純文学よりも遥かに面白い」と感銘を受け、自身の執筆スタイルも大衆小説寄りにシフトしていった。しかし、初期の純文学に応募しつづけた際には、うまく芽が出ず、作家である山田詠美から「こんなに面白い題材で、よくこんなにつまらない小説が書けるものだ」と批判を受けたこともある。

代表的な著作

久坂部の著作には、医療系のエッセイや小説が多数含まれている。『医療系』としては、『大学病院のウラは墓場』や『思い通りの死に方』などがあり、特に医療現場の内情についての啓蒙的な内容が多い。一方、彼の小説には『無痛』や『悪医』など、医療ドラマとしての側面を持つ作品が多く、映像化もされている。

まとめ

久坂部羊は、医師としての実体験を基にした作品を通じて、医療の実情と人間の死について深く考察し続ける作家である。彼の作品は文学界のみならず、医療界でも広く注目されており、彼の意見や著作には今後も多くの期待が寄せられている。

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