乙

乙（おつ、きのと）

「乙」は、古代中国の暦法や占術に由来する体系である十干の第二番目を指す言葉です。読み方としては「おつ」が一般的ですが、陰陽五行説において木性の陰に割り当てられていることから、日本では「きのと」とも呼ばれます。この「きのと」という読み方は、「木の弟」を意味すると解釈されており、陰陽五行説における「木」の要素と、十干の順番における陰陽（甲が陽、乙が陰）を示すとされます。

漢字の由来と意味

「乙」という漢字が、なぜ十干の第二番目を指すようになったのか、その起源については古くから様々な説が提唱されていますが、現代においても定説は確立されていません。現在では、この漢字が十干の第二位を示すのに用いられるのは、本来の意味とは異なる使い方、すなわち仮借（かしゃく）によるものと考えられています。

「乙」は、その順序から様々な文脈で利用されます。

順序や分類

最も基本的な用法として、十干の二番目であることから、順序付けや分類において二番目を示す際に用いられます。例えば、「甲、乙、丙」といった形で、物事のランク付けや区分に使われます。

また、事柄を区分する際に「乙種」「乙類」といった形で用いられることもあります。これは単に第一の区分を「甲」、第二の区分を「乙」と名付けた分類名であり、必ずしも品質や重要度を示すものではありません。しかし、「甲」が最初に挙げられることから、「乙」が「甲」よりも質的に劣っている、あるいは重要度が低いと誤解されるケースが少なくありません。この誤解の代表的な例として、日本の焼酎の分類があります。焼酎には「甲類焼酎」と「乙類焼酎」という区分がありますが、「乙類」が品質的に劣るとの誤解を避けるため、今日では「本格焼酎」という別称が広く用いられ、その多様な個性と製法が評価されています。

優劣の比較

「乙」は、しばしば優劣を比較する文脈でも使用されます。「甲乙付けがたい」という慣用句は、二つのものがどちらも優れており、優劣の判断が難しい状況を表す際に使われます。この表現に見られるように、比較の文脈では「甲」が優位、「乙」が劣位の例えとして用いられる傾向があります。これは、書道やその他の技能分野における進級・昇段試験などで、評価を示す際に甲、乙、丙といった等級が用いられることとも関連しており、最高の評価を「甲」、それに次ぐ評価を「乙」とする習慣が影響していると考えられます。

暦における「乙」

十干は、十二支と組み合わせて干支（えと）を作り、年や日を表すのに用いられます。年を数える干支紀年法においては、西暦年の下一桁が5である年が「乙」の年となります。例えば、2015年や2025年などがこれにあたります。また、年を表す際の別名として「旃蒙（せんもう）」という呼称も存在します。

十干はそれぞれ特定の干と対になるとされており、「乙」と対になる干は「庚（かのえ）」です。

陰陽道や方位術においては、「乙」に関連する恵方（その年の福徳をつかさどる歳徳神の在する方角）が定められており、特定の年には恵方巻きの方角などで意識されることがあります。インプット情報によると、「乙」の恵方は西南西やや西（おおよそ255度の方角）とされます。

「乙」を含む干支

十干の「乙」は、十二支と組み合わされて以下の6つの干支を形成します。これらは、年、月、日、時間を表す干支として用いられます。

乙丑（きのとうし）
乙亥（きのとい）
乙酉（きのととり）
乙未（きのとひつじ）
乙巳（きのとみ）
乙卯（きのとう）

これらの干支は、個人の運勢や出来事の日取りなどを占う際にも参照されることがあります。

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