十干

十干：古代中国から現代社会まで続く暦法システム

十干（じっかん）は、[甲]、乙(きのと)、[丙]、丁(ひのと)、戊(つちのえ)、己(つちのと)、庚(かのえ)、辛(かのと)、壬(みずのえ)、癸(みずのと)の10文字からなる、古代中国で考案された暦法の要素です。日本では、十二支と組み合わせて干支（えと）と呼ばれ、暦の表示、方位の決定、順位付けなど、幅広い用途で使われています。

十干の起源と五行思想との関連

十干の起源は古代中国に遡り、その後、日本に伝えられました。十干は単なる記号ではなく、五行思想（木、火、土、金、水の5つの要素）と深く関連しています。甲と乙は木、丙と丁は火、戊と己は土、庚と辛は金、壬と癸は水にそれぞれ対応し、さらに陰陽の概念も組み込まれています。日本では、陽を兄、陰を弟と見立て、「甲」を「木の兄」、「乙」を「木の弟」と呼ぶ習慣もあります。「干支」を「えと」と呼ぶのも、この「兄弟」に由来すると言われています。

十干の具体的な用途

十干は、様々な場面で活用されています。

暦: 十干と十二支を組み合わせた干支は、暦の表示に用いられ、年、月、日を表現します。
方位: 十干は五行説と結びついて五方（東西南北中央）と関連付けられ、恵方などの方位決定にも用いられています。
法律: 日本、韓国、台湾、中国などでは、法律文書において、登場人物の仮名や、契約書における当事者の氏名・名称の略称として十干が使われています。これは、古代中国の秦の時代から続く慣習です。例えば、「甲男」、「乙女」といった表現が用いられます。
順位: 十干は、ものの階級・等級、種類を示すためにも用いられます。例えば、焼酎の甲類・乙類、資格の甲種・乙種などがその例です。また、かつては学校の成績や徴兵検査の結果を表す際にも使用されていました。
有機化学: 中国語では、有機化合物の命名に十干が用いられることがあります。主鎖にある炭素の数が1個なら甲、2個なら乙…と命名されます。メタンは甲烷、エタノールは乙醇といった具合です。
スポーツ: 中国や台湾では、スポーツリーグにおいて、甲級（1部）、乙級（2部）といった区分けに十干が使われています。
住所: 日本の住所表記において、地番区域を区別する符号として十干が用いられる場合があります。西日本を中心に、地番の数字の前に甲、乙、丙…を付して住所の一部とする地域があり、明治初期の地租改正当時から続く慣習です。しかし、地域によっては好意的に見られていない場合もあるようです。
漢文の訓読: 漢文の訓読においては、返り点として十干が用いられます。

十干の解釈に関する考察

十干の本義については、古代の文献である『史記』の歴書などを参考にすると、生命消長の循環過程を表現したものと考えられます。実際の木や火、動物などとは直接的な関係はないとされています。また、殷の時代には、10個の太陽が存在し、10日で一巡りするという考えがあり、十干はそれぞれの太陽を表す名前だったという説もあります。

まとめ

十干は、古代中国で発祥し、日本を含む漢字文化圏で長く使われてきた暦法の要素です。五行思想や陰陽思想と深く結びつき、暦、方位、法律文書、順位付けなど、様々な場面で活用されています。その起源や解釈については諸説ありますが、現代でも様々な形で活用され続けていることは、十干が持つ普遍的な価値を示していると言えるでしょう。

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