乙女の碑

乙女の碑と黒川開拓団の悲劇

岐阜県白川町の佐久良太神社境内にひっそりと佇む「乙女の碑」。この碑は、満州開拓団の中でも特に悲惨な運命をたどった黒川開拓団の慰霊碑です。1982年に建立されましたが、当初は性接待という衝撃的な事実は伏せられ、碑文も「満洲国で亡くなった女性たちの碑」程度に留められていました。しかし、2010年代以降、被害者たちの勇気ある証言によって、その隠された歴史が明らかになり、2018年には新たな碑文が追加されました。

黒川開拓団とは

黒川開拓団は、旧黒川村（現在の白川町）の住民を中心に、1941年から満州（現在の中国東北部）の吉林省陶頼昭に入植した集団です。総勢600人以上が、開拓事業に従事しました。しかし、太平洋戦争末期の1945年8月、ソ連軍の侵攻により状況は一変します。敗戦とともに暴徒化した中国人が押し寄せ、ソ連兵による虐殺や略奪、強姦の危険が迫っていました。周辺の開拓団が次々と集団自決する中、黒川開拓団は生き残るために苦渋の選択を迫られます。

性接待という選択

開拓団の幹部は、駐留していたソ連兵に守ってもらうことを選びます。その代償として、18歳以上の未婚女性12～15名が、性接待係として差し出されたのです。女性たちに拒否権はなく、幹部による強制的なものでした。この事実は、戦後長らく秘匿されてきましたが、近年になり、被害者たちが重い口を開き始めました。彼女たちは、毎日複数人のソ連兵と性交を強いられ、性病や発疹チフスに苦しみました。その結果、4名の女性が現地で命を落とし、帰国後も長期入院を余儀なくされた女性もいました。接待所は開拓団内と陶頼昭駅の2箇所に設けられ、約2ヶ月から9ヶ月間続いたとされています。

碑の建立と真実の公表

1982年に遺族会によって「乙女の碑」が建立されましたが、当初は性接待の事実は伏せられていました。しかし、2012年、遺族会の会長が事実を知り、碑文に真実を刻むために尽力します。被害女性たちの理解を得て、2018年、ついに新たな碑文が完成し、除幕式が行われました。

証言とその後

戦後、被害者たちは性接待の事実を秘密にしていましたが、1980年代から徐々に証言を始めました。雑誌や証言会で、当時の悲惨な状況が語られ、社会に衝撃を与えました。しかし、彼女たちが受けた傷は深く、帰国後も、団員の男性たちから「（性交したところで）減るもんじゃない」「傷者（キズモノ）」などと中傷されることもありました。彼女たちの犠牲によって多くの団員が帰国できたにもかかわらず、その事実は長らく闇に葬られていました。

2010年代に入り、被害者たちは自身の死を意識し始めたことから、過去を語り始めました。それは、歴史を教訓として残したいという強い思いからです。2016年には、ノンフィクション作家によるルポが発表され、テレビ番組や新聞などでも取り上げられるようになり、この悲劇は広く知られることとなりました。

関連書籍

『告白』 川 恵実、NHK ETV特集取材班、田中佳奈（写真）、かもがわ出版 2020年
『ソ連兵へ差し出された娘たち』 平井美帆、集英社 2022年

外部リンク

662人を日本に帰すため､ソ連兵の性的暴行に耐えた未婚女性15人の苦しみ

関連項目

満蒙開拓平和記念館
* 九人の乙女の像

「乙女の碑」は、戦争の悲惨さと、そこで犠牲になった女性たちの苦しみを後世に伝える貴重な存在です。この碑が、過去の過ちを繰り返さないための教訓となることを願います。

もう一度検索