乙姫大橋

乙姫大橋

岐阜県中津川市内を流れる雄大な木曽川に、一本の美しい橋が架かっています。その名も「乙姫大橋」。主に農業用の道路として利用される農免農道の一部を構成するこの橋は、地域の生活や産業を支える重要な役割を担っています。

この橋が供用を開始したのは1995年（平成7年）のこと。開通当時の乙姫大橋は、岐阜県恵那郡坂下町と長野県木曽郡山口村という、まさに両県の境に位置する橋でした。しかし、地方自治体の再編が進む中で、2005年（平成17年）に坂下町と山口村が揃って中津川市に編入されたことにより、現在ではその全区間が中津川市内に収まる、市内の橋となっています。

橋の規模を示す諸元は以下の通りです。

供用開始: 1995年（平成7年）
延長: 316.0メートル
幅員: 8.3メートル（車道と歩道を合わせた幅）
構造形式: 単純鋼曲線箱桁、2径間連続鋼トラス、単純鋼曲線箱桁を組み合わせた構造
* 所在地: 岐阜県中津川市氷坂から同市山口に至る区間

乙姫大橋というユニークな名称は、広く知られるお伽話『浦島太郎』に登場する竜宮城の乙姫様に由来しています。これは、この木曽川沿いの地域に古くから伝わる一つの伝説に深く根差しているためです。橋の欄干には、その伝説に登場する乙姫様をモチーフにした美しいレリーフが嵌め込まれており、橋を渡る人々に物語の世界を想起させます。さらに、橋のほど近くには、かつて竜宮城があった場所だと語り継がれる「乙姫岩」と呼ばれる神秘的な岩も存在しており、橋の名前とその由来を結びつけています。

この地に伝わる乙姫伝説

乙姫大橋の名に繋がる乙姫伝説は、次のような物語としてこの地域に語り継がれています。

物語の舞台は、乙姫岩のすぐ傍らにあったと伝えられる竜宮城。そこに住んでいたのが、心優しい乙姫様でした。一方、遠く離れた長野県木曽郡上松町にある景勝地、寝覚の床で釣りに興じていたのは、ご存じ浦島太郎です。ある日、突然の鉄砲水に見舞われた浦島太郎は、激流に流され、気がつけばこの乙姫岩の辺りに漂着していました。

倒れている浦島太郎を見つけた乙姫様は、彼を手厚く介抱します。やがて二人の間に愛情が芽生え、恋仲となった二人は、乙姫岩の竜宮城で共に暮らすようになりました。穏やかで楽しい日々が続きますが、いつまでも乙姫様に甘えてばかりはいられないと考えた浦島太郎は、故郷である寝覚の床へ帰る決意を固めます。

別れを惜しむ乙姫様は、浦島太郎との再会を固く約束し、旅立ちの土産として一つの玉手箱を手渡しました。その際、乙姫様は浦島太郎に「決して玉手箱を開けてはなりません」と固く言い含めたと言われています。しかし、寝覚の床に戻った浦島太郎は、好奇心に駆られたのか、あるいは別の理由からか、乙姫様との約束を破り、玉手箱を開けてしまいます。すると、箱からは白い煙が立ち上り、その煙を浴びた浦島太郎はたちまちにして老人になってしまった、という結末を迎えます。

乙姫大橋は、この伝説が今も生きる地域の象徴として、人々と木曽川を結び、物語の世界へと誘う存在となっています。橋を訪れる際は、欄干のレリーフや乙姫岩に目を向け、古から伝わるロマンあふれる伝説に思いを馳せてみるのも良いでしょう。

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