九ちゃん!

バラエティ番組『九ちゃん！』：坂本九と「結構だね」の時代

1965年11月4日から1968年10月26日まで、日本テレビ系列で放送されたバラエティ番組『九ちゃん！』。全151回にわたって放送され、当時大きな人気を博しました。この番組は、人気歌手坂本九をメインパーソナリティに据え、日本青年館、大手町サンケイホール、渋谷公会堂など首都圏の公会堂を舞台にした公開収録という、当時としては画期的な試みで注目を集めました。日本のテレビ番組において、公会堂を舞台とした公開番組の先駆けとなった番組と言えます。

当初は木曜21時枠で放送されていましたが、半年後には土曜19時30分枠へ移動。この枠移動と同時に、人気コメディトリオであるてんぷくトリオがレギュラーに加わりました。番組開始当初から、観客が「九ちゃーん！」と叫ぶと、坂本九が「あっ、結構だね！」と返す掛け合いが定番となり、このフレーズは番組の代名詞となりました。この人気ぶりを受けて、「結構だね音頭」という楽曲もリリースされ、社会現象となるほどの大きなブームを巻き起こしました。

番組の構成は、複数の放送作家による合作という、当時としては非常に珍しい手法がとられていました。ディレクターの齋藤太朗氏によると、5人ほどの作家がホテルの部屋に集まり、1日で企画から脚本執筆までをこなしていたそうです。この作業の様子は、当時既に人気絶頂だった萩本欽一氏も一度見学に訪れるほど、独特で話題性のある取り組みでした。

しかし、この人気番組も、1968年10月に終了することになります。その理由として、ディレクターの齋藤氏によると、坂本九の所属事務所であるマナセプロダクションがギャラアップを要求してきたことが挙げられています。番組制作費の限界に達していた日本テレビ側は、コスト削減のためスタジオ収録への変更による番組リニューアルを決定し、『イチ・ニのキュー！』と題して再出発を試みました。しかし、事務所側はさらにギャラアップを要求し、これにはスタッフも「もう削れるものがない」と判断。結果的にリニューアル後わずか半年で番組は終了という憂き目に遭いました。

番組には、坂本九の他に、スタジオNo.1ダンサーズ、スタジオNo.1シンガーズ、ザ・シャデラックスといった音楽関係者や、少女歌手として活躍していた小林幸子（当時「ちびっこトリオ」として出演）、そしててんぷくトリオなどがレギュラー出演していました。番組の構成には、城悠輔、井上ひさし、中原弓彦（後の小林信彦）、河野洋、山崎忠昭といったそうそうたる顔ぶれが名を連ねています。演出は齋藤太朗氏、仁科俊介氏、プロデューサーは井原高忠氏、制作著作は日本テレビが担当しました。スポンサーは、当初はハクキンカイロ、龍角散、第一工業製薬の3社でしたが、土曜枠移行後は味の素の一社提供となり、「味の素K.K. ミュージックレストラン」という冠サブタイトルが付けられました。

番組の貴重な映像は、ほとんどが現存していません。例外として、伊東四朗がTBSの番組『TVジェネレーション』に出演した際に、柏木由紀子氏が所持していたキネコ版の一部が放送されたことがあります。放送されたのは、榎本健一がゲスト出演した回で、番組冒頭の「九ちゃーん！」「あっ、結構だね！」の掛け合いシーンや、味の素のCMも確認できます。また、1967年公開の日活映画『君は恋人』には、坂本九が本番組にゲスト出演するシーンが登場しますが、これが番組本編からの流用なのか、映画のための別撮りなのかは不明です。

『九ちゃん！』は、坂本九というスーパースターの存在、斬新な公開収録、そして「結構だね」というフレーズによって生み出された、まさに時代の寵児と言える番組でした。その人気と短い歴史は、日本のテレビ史に深く刻まれています。番組資料として残された情報も少なく、より詳細な記録の発見が今後の課題と言えます。

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