九五式装甲軌道車

九五式装甲軌道車（95しきそうこうきどうしゃ）

九五式装甲軌道車は、大日本帝国陸軍によって1935年に正式に採用された鉄道用の装甲車両です。この車両は、鉄道の軌道上を走行するための鉄輪を持ち、さらに無限軌道も装備しているため、軌道外でも走行することができるという特異な特徴を持っています。略称は「ソキ」で、「装甲」と「軌道」の頭文字を取ったものです。

開発の背景

九五式装甲軌道車は、主に南満州鉄道の警備を目的として工兵の装備として開発が進められました。設計と試作は東京瓦斯電気工業が行い、1935年には試作車が完成、以降は正式な装備として採用されました。開発当初からこの車両は秘密兵器として位置付けられており、そのため、多くの資料や画像は検閲対象となっていました。

この車両は本質的には鉄道車両であり、鉄輪によって本格的な軌道走行能力を有しています。鉄輪は2軸4輪構造で、狭軌（1067mm）、標準軌（1435mm）、広軌（1524mm）のレール幅に対応可能です。また、九一式軽貨車を牽引することもできる性能を持っています。

最も注目すべき特徴は、無限軌道を使用することで軌道外を走行できる点です。多くの国に装輪の装甲車は存在しましたが、装軌の装甲車が量産されたのは日本だけです。軌道走行中は、履帯は吊り上げられて邪魔にならないようにし、軌道外では逆に鉄輪を収容する仕組みになっています。切り替え作業は車内から行うことができ、軌道を離れるには1分、復帰には3分といった短時間で対応可能です。

外観と武装

九五式装甲軌道車の外観は、一見すると戦車に似た印象を与えますが、装甲は小銃弾に耐えられる軽装のものであり、戦闘能力を重視しているわけではありません。そのため、砲塔は設けられているものの、固有の武装は持たず、必要に応じて十一年式軽機関銃などの装着が可能です。固有武装がないのは、戦車を管理する歩兵科からの意見を受けた結果であり、工兵車両としての特色を重視した形となっています。

このような兵科間の意見の対立は、他の装甲車両の開発にも影響を与えたことが知られています。さらに、派生車両として、クレーンを搭載した鉄道工作車が開発されています。

実戦配備と運用

九五式装甲軌道車は、東京瓦斯電気工業の他に三菱重工業でも生産され、合計121両が完成しました。この車両は各鉄道連隊に配備され、日中戦争から実戦に参加しました。鉄道警備の任務や、鉄道沿いの侵攻作戦に使われたほか、迅速な野外機動が可能なため、先遣車両としても活躍しました。太平洋戦争中には、一部がビルマ戦線にも配備されています。

戦後、この車両は中国軍に接収され、北京市の中国人民革命軍事博物館には、八路軍のマーキングが施された1両が保存されています。また、アメリカ軍は1両を研究資材として持ち帰り、ロシアのクビンカ戦車博物館にも1両が保存展示されています。

このように、九五式装甲軌道車は独特な設計と歴史的背景を持つ重要な軍事装備であり、今なおその存在は多くの研究者や歴史愛好家によって評価されています。

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