九曜文庫本源氏物語

九曜文庫本源氏物語：貴重な源氏物語写本とその歴史

九曜文庫本源氏物語は、源氏物語の写本の一つとして知られています。その名称は、現在この写本を所蔵する九曜文庫に由来しています。この写本は、単なる写本ではなく、その歴史、本文系統、装丁など、多くの点で注目に値する貴重な資料です。

写本の発見と経緯

この写本の歴史は、大正時代から昭和時代にかけて活躍した国文学者、野村八良氏に遡ります。野村氏は1924年11月、東京神田の古書店「細川書店」でこの写本を発見し、入手しました。当時、この写本は「源氏物語　五十四帖及系図　粘葉装　（野村八良蔵）」として紹介されており、54帖の本文に加え、系図1帖が付属していることが分かります。

その後、早稲田大学名誉教授の中野幸一氏の手に渡り、氏の個人コレクションである九曜文庫に収蔵されることとなりました。この経緯からも、この写本がいかに貴重な資料として扱われてきたかが伺えます。

系図の特徴

付属の系図は、三条西実隆が作成した有名な「実隆本」ではなく、それよりも古い「古系図」に属するものです。さらに、室町時代の歌人、宗祇の古系図と校合したとの跋文があり、系図の成立過程を知る上で重要な手がかりとなっています。

装丁の美しさ

九曜文庫本源氏物語は、嫁入本という形態で、美しい装丁が施されています。箱の上蓋には「花山院筆」と記されていますが、これは花山天皇の筆によるものなのかどうかは、現状では断定できません。この装丁の美しさも、この写本を特別な存在たらしめている要素の一つです。

本文系統

本文系統については、野村氏は「流布本（湖月抄）と比較し大いに相違する」と指摘していました。一方、中野幸一氏は、この写本を概ね青表紙本系統に属すると考えていました。両者の意見が異なる点も興味深いところです。

現在、この写本は単独での影印本や翻刻本は存在せず、『校異源氏物語』や『源氏物語大成校異編』といった主要な校本にも採用されていません。しかし、その貴重な内容から、今後の源氏物語研究において重要な役割を果たす可能性を秘めていると言えるでしょう。

今後の研究

九曜文庫本源氏物語は、その発見から現在に至るまで、多くの国文学者によって研究されてきました。しかし、まだ解明されていない点も多く残されています。今後、更なる研究が進むことで、この写本の持つ価値がより明確になり、源氏物語研究に新たな知見をもたらすことが期待されます。特に本文系統の精密な分析や、装丁に関する更なる調査などは、今後の研究課題として重要と言えるでしょう。また、系図の成立過程や宗祇との関係についても、更なる研究が必要となるでしょう。

九曜文庫本源氏物語は、単なる古文書ではなく、歴史、文学、芸術など、多角的な視点から考察できる貴重な資料です。この写本に関する研究は、源氏物語研究のみならず、日本の古典文学研究全体に大きな貢献をするものと期待されています。

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