校異源氏物語

『校異源氏物語』は、日本の古典文学研究史において重要な位置を占める『源氏物語』の校本です。池田亀鑑の主導によって編纂され、昭和17年（1942年）に刊行されました。この作品は、『源氏物語』の諸本を精緻に比較検討し、それらの異同を明らかにすることで、本文の正確な復元を目指したものです。

池田亀鑑は、『源氏物語』の伝本を大きく三系統に分類しました。それは青表紙本、河内本、そして別本です。この分類に基づき、『校異源氏物語』は、各系統の代表的な諸本の異文を詳細に一覧表として提示しています。特に、現存する青表紙本の巻を底本とし、他の巻には大島本や池田本などの有力な写本を参照することで、信頼性の高い校本を目指しました。

初版では「校異篇」のみの全5巻でしたが、後に『源氏物語大成』として全8巻に増補されました。増補版には、「校異篇」に加えて「索引篇」、「研究篇」、「資料篇」、「図録篇」が追加され、より包括的な内容となりました。『源氏物語大成』は『校異源氏物語』を土台に、さらなる研究成果を取り入れ、発展させたものです。

『校異源氏物語』の刊行は、当時の『源氏物語』研究に大きな影響を与えました。それまで断片的にしか行われていなかった学術的な校本作成において、本格的な試みとして高く評価されたのです。その精度の高さは、刊行から半世紀以上を経た現在でも、研究者によって参照され続けており、現代の『源氏物語』研究に欠かせない重要な資料となっています。

『校異源氏物語』の編纂にあたっては、池田亀鑑門下の多くの研究者たちが協力しました。松田武夫、大津有一、松尾聰、鈴木知太郎、桜井祐三、石清水尚、春名好重（斎藤秀雄）、清田正喜、松村誠一、萩谷朴、中性哲、木田園子など、戦前の第一線で活躍したそうそうたるメンバーが参加したことで知られています。これらの研究者たちの知見と協力が、『校異源氏物語』の高い信頼性と学術的価値を支えています。

このように、『校異源氏物語』は、綿密な校訂と多くの研究者たちの協働によって生まれた、学術的に優れた『源氏物語』の校本です。その影響は、現代の『源氏物語』研究にまで及んでおり、古典文学研究において、今もなお重要な役割を果たし続けています。現在でも、デジタルデータベース化されたテキストも公開されており、研究者だけでなく、一般の人々にもアクセスしやすい形で『源氏物語』研究に貢献しています。

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