九条家本源氏物語聞書

九条家本源氏物語聞書：中院通勝の源氏学と連歌師の記録

「九条家本源氏物語聞書」は、『源氏物語』に関する注釈書です。書名に含まれる「九条家本」は、蔵書印から九条家に伝来したと考えられていますが、成立当初から九条家にあったかどうかは不明です。現在、実践女子大学常磐松文庫が所蔵しています。

記録の内容と成立時期

本書は、中院通勝による『源氏物語』の講義を記録したものです。通勝は、大規模な『源氏物語』注釈書『岷江入楚』の著者としても知られています。そのため、本書は『岷江入楚』完成後の通勝の源氏解釈の展開を理解する上で、非常に貴重な資料と言えます。

興味深いのは、本書の記述様式です。登場人物への敬称の遣い方などから、里村紹巴に近い立場にあった連歌師が記録した可能性が高いと推測されています。また、『岷江入楚』には含まれていない他の注釈書からの引用も見られることから、通勝の研究範囲の広さと、多様な文献を参照していたことが分かります。

本書の成立時期は、複数の講釈の日付から推定されています。慶長3年（1598年）に『岷江入楚』が完成していることから、本書はその後の講釈を記録したものだと考えられます。さらに、後陽成天皇に関する記述から、同天皇の退位（慶長16年3月27日）以降に記述された部分も含まれていると推定されています。

増補と伝来

本書は一度に完成したのではなく、完成後に複数回に渡って増補されたと考えられます。各巻に「追」と記された追加の注釈が存在することからも、この説が裏付けられています。

伝来については、複数の「九条」の蔵書印があることから九条家旧蔵本であると考えられていますが、その経緯は明らかではありません。「月明荘」という蔵書印も確認されており、弘文荘反町茂雄の所蔵を経て、九条家に渡った可能性も示唆されます。「九条家本源氏物語聞書」という題箋は、弘文荘反町茂雄によって記された可能性が高いとされています。

1969年に古書店一誠堂から実践女子大学が購入し、以来、常磐松文庫で大切に保管されています。伊井春樹氏による紹介を経て、1988年の『第3回実践女子大学蔵書展』で野村精一氏によって初めて紹介されました。その後、1996年から2000年にかけて『実践女子大学文芸資料研究所 年報』で翻刻が掲載され、内容が広く知られるようになりました。

書籍の構成と翻刻

本書は全5冊で、『源氏物語』全54帖を網羅しています。ただし、巻次には一部混乱が見られます。例えば、第2冊にくるべき第23帖『初音』が第3冊の第27帖『篝火』の後に位置しているなどです。これは、成立当初からのものではなく、後世の補修や綴じ直しの際に生じた誤りと考えられます。

本書の翻刻は、『実践女子大学文芸資料研究所 年報』に掲載されています。渡邉道子氏、徳岡涼氏らを始めとした複数の研究者によって、1996年から2000年にかけて5回に分けて発表されました。

研究史と意義

「九条家本源氏物語聞書」は、中院通勝の『源氏物語』解釈、そして当時の人々の『源氏物語』への関わりを知る上で非常に重要な資料です。『岷江入楚』以降の通勝の研究の深まりや、連歌師による注釈の記録という点において、学術的に高い価値を有しています。本書の研究は、今後も『源氏物語』研究において重要な役割を果たしていくでしょう。今後も、更なる研究と分析によって、本書の持つ価値がより深く明らかにされていくことが期待されます。

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