九筋二領

九筋二領（くすじにりょう）

九筋二領は、近世の甲斐国における地域区分を示す言葉で、主に甲府盆地から甲斐北西部の国中にかけての土地を指します。この区分は「九筋」と「二領」に分かれ、九筋は甲府盆地から北西部の地域に存在する9つの筋に相当し、その地域区分の詳細は『甲斐国志』に記されています。一方、「二領」は、甲斐南部の富士川沿岸区域と東部の郡内地域を指します。

歴史的背景

九筋二領の形成は古く、律令制度の下での国郡制に遡ります。甲斐国では、山梨郡、八代郡、巨摩郡、都留郡の4つの郡が設立されました。中世には甲府盆地内で三区分の地域呼称が設けられ、東郡は笛吹川の東側、西郡は釜無川の西側、中郡はその間に位置していました。

戦国時代には、特に西郡の北西部の巨摩郡北部が「逸見」として区別され、四つの区分に分かれるようになりました。ここで製作された地域区分は、それぞれ「郡筋」という名称が付けられ、九筋の境界が整理されていきました。

また、天正17年には関東郡代の伊奈忠次による五カ国総検地が行われ、その結果九筋のさまざまな区分が公式に設定されることになります。それに基づき、九筋は東郡が栗原筋、万力筋、大石和筋、小石和筋、中郡が北山筋・中郡筋、西郡が西郡筋、逸見筋、武川筋に分かれ、このようにして九筋の地域区分が確立されました。

近世の支配体制

九筋二領は、近世初期には浅野長政や幸長による支配のもとでその地域区分が生かされました。浅野氏の時代には、それぞれの筋に3名の筋奉行が配置され、郡内領や河内領）についても支配が行われたのです。

江戸時代の初めから19世紀にかけて作成された甲斐国絵図にも、九筋二領の区分が色濃く反映されています。特に髙橋修氏の研究により、17世紀中頃には甲府徳川家による統治を目的とした国絵図が作成され、後に柳沢氏がこの伝統を引き継ぎました。これらの絵図は、九筋二領の地域区分を示すための重要な歴史的資料として評価されています。

各地域の詳細

九筋二領は、以下のように具体的に分けられています：

• - 栗原筋（くりばらすじ）: 山梨郡の東部。
• - 万力筋（まんりきすじ）: 山梨郡の中央部で、東寄りの地域。
• - 大石和筋（おおいさわすじ）: 八代郡の東部。
• - 小石和筋（こいさわすじ）: 八代郡の中央部、東寄り。
• - 中郡筋（なかごおりすじ）: 甲府盆地の中央部に位置し、巨摩郡、山梨郡、八代郡にまたがります。
• - 北山筋（きたやますじ）: 山梨郡北西部と巨摩郡北東部にまたがります。
• - 逸見筋（へみすじ）: 巨摩郡北西部で、八ヶ岳からの豊富な湧水に恵まれた米の生産地。
• - 武川筋（むかわすじ）: 巨摩郡の中西部。歴史的には武川衆の本拠地です。
• - 西郡筋（にしごおりすじ）: 巨摩郡と八代郡の両方の一部を含む地域。
• - 河内領（かわちりょう）: 甲斐南部の富士川流域で、南部氏の元領地でしたがその後は穴山氏の地域となり、武田氏の支配下にもありつつ独自性を持ち続けました。
• - 郡内領（ぐんないりょう）: 都留郡全体を含む広域で、小山田氏が治め、武田氏の支配下でも独自のスタンスを保っていました。

このように、九筋二領は甲斐国の行政区画とその歴史を理解する上で欠かせない重要な構成要素です。

もう一度検索