乾元大宝

乾元大宝について

乾元大宝（乹元大寳、けんげんたいほう）は、日本の銭貨の一つであり、958年3月から鋳造・発行されました。この貨幣は、皇朝十二銭の最後の発行物として位置づけられており、その歴史的背景や流通状況については興味深い点が多いです。

発行の背景

乾元大宝が鋳造されたのは、平安時代中期の村上天皇の治世にあたる天徳2年（958年）の世界情勢や経済状況に影響を受けた結果です。この時期、日本国内では貴族による文化の発展が進み、貨幣の発行はその象徴の一つとも言えます。『日本紀略』によると、実際に発行されたのは958年3月25日であり、その銭文（銭に刻まれた文字）は当時の文化や書道技術の現れでもあります。

銭貨の特徴

乾元大宝の主な特徴としては、材質が銅であり、量目（重さ）は2.44g、直径は19.5mm、銅分が51.25%といった数値が挙げられます。しかし、皇朝十二銭の中でも、平安遷都以降に発行された9貨種の質は低下しており、特に乾元大宝は製作技術の未熟さが顕著で、銭文の文字が不鮮明なものも多く存在しました。

書体の選定と制作の経緯

乾元大宝の銭文は、参議の大江惟時によって提案され、阿保懐之の書が採用されました。しかし、当時名高い書道家であった小野道風は、65歳になって眼病のため細かい字を書くことができず、さらにもう一人の有名な能書家である紀文正も触穢を理由に制作を拒否しました。そのため、阿保懐之に銭文の制作が託されることとなりました。

流通の実態

乾元大宝は、流通が非常に狭く、またその質に問題があったため実際にはあまり広まりませんでした。特に品質の低さから、流通に影響を及ぼし、安定性を欠く事態が続きました。しかし、当時の平安貴族はその原因を理解できず、流通を祈願して伊勢神宮などに新造の乾元大宝を奉納するなどの行動を取っていました。

発行の終了とその後

この乾元大宝は963年（応和3年）に、朝廷による最後の発行貨幣として鋳造を終了しました。その後、11世紀初めには銭貨の流通が途絶え、約150年に及ぶ金属貨幣の空白期に突入します。この時期、代替となる貨幣として絹や布、さらには米などが用いられました。12世紀半ばには中国からの渡来銭が流入し、それによって日本の貨幣制度も新たな展開を迎えることとなりました。

まとめ

乾元大宝は日本の歴史において重要な位置を占める貨幣であり、特にその発行背景や品質問題は、当時の社会経済の複雑さを反映しています。短期間で消失したものの、その存在は日本の文化史を理解する上で欠かせないものとなっています。

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