乾晴美

乾 晴美（いぬい はるみ）氏は、1934年（昭和9年）10月18日に生まれ、2025年（令和7年）2月26日にその生涯を閉じた日本の政治家です。参議院議員を一期務め、AWA女性問題研究所の代表としても知られています。徳島県石井町の出身で、徳島大学学芸学部を卒業しています。工学者の佐藤大記氏は遠縁にあたります。

徳島県石井町で育った乾氏は、1957年（昭和32年）に徳島大学学芸学部を卒業しました。大学卒業後は教育の道に進み、教員として教壇に立ちました。その後、徳島県庁に勤務し、1982年（昭和57年）には青少年婦人室の室長補佐を務めるなど、行政分野での経験も積みました。

乾氏が政治の世界に足を踏み入れたのは1989年（平成元年）のことです。この年の第15回参議院議員通常選挙に、「連合の会」の公認候補として徳島県選挙区から立候補しました。この選挙では、当時議席を保持していた自由民主党の候補を破り、見事に初当選を果たしました。この当選により、乾氏は参議院議員として初めて国政の場に立つことになりました。

参議院議員として活動する中で、1993年（平成5年）に発足した細川護煕内閣においては、科学技術政務次官という重要なポストに任命されました。科学技術分野の政策決定に関わる立場で、その職責を果たしました。

しかし、その後は厳しい選挙戦を経験することになります。1995年（平成7年）の第17回参議院議員通常選挙で、再選を目指しましたが惜しくも落選。さらに、1998年（平成10年）の第18回参議院議員通常選挙には、今度は民主党の候補として比例代表区から立候補しましたが、再び議席を得ることはできませんでした。

議員時代や引退後も、社会的な問題や政界の出来事に対して自身の見解を示すことがありました。例えば、1999年（平成11年）には、妻の介護を理由に大阪府高槻市の市長が辞職した件について、「二人の幸せのためにその方がいいと決断されたのであれば素晴らしいことだ」と述べ、個人の決断に理解と敬意を示す姿勢を見せました。

国会議員としての職を離れた後も、乾氏は地元徳島の政界との繋がりを保ち続けました。旧国民民主党や、その後継である立憲民主党の徳島県連で顧問を務めるなど、後進への助言や支援を行いました。また、地元の政治家である仁木博文氏の後援会幹部としても活動し、地域政治への貢献を続けました。

政治活動と並行して、乾氏が生涯を通じて情熱を注いだのが、自身の戦争体験を語り継ぐことでした。戦時中の経験から、平和の尊さや戦争の悲惨さを伝えることの重要性を痛感しており、各地で講演活動を積極的に行いました。特に、戦争の記憶を未来世代に継承することに強い使命感を持ち、2020年（令和2年）には、徳島県退職女性教職員の会や県教職員組合の協力により、自身の戦争体験の証言を収録したDVD「私が軍国少女を生きた時代」が制作されました。このDVDは、平和教育の現場などで活用されています。

長年にわたる公職への貢献や、社会活動への尽力が評価され、2004年（平成16年）には、旭日中綬章を受章しました。これは、その功績に対する国家からの顕彰です。

晩年も徳島で過ごし、最期まで社会との関わりを持ち続けました。2025年（令和7年）2月26日、膵臓がんのため、徳島市内の自宅で逝去しました。享年90。多岐にわたる活動で社会に貢献した乾氏に対し、その死没日付をもって正五位が追贈されました。

乾晴美氏は、教育者、地方公務員、国会議員、そして戦争体験の語り部として、様々な立場で社会に貢献しました。特に徳島県初の女性参議院議員として、また平和への強いメッセージを発信し続けた人物として記憶されるでしょう。

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