乾正聰

乾 正聰（いぬい まさあき）

乾正聰は江戸時代中期の土佐藩士であり、家格は300石の知行を持つ馬廻役でありました。彼はその独特な性格と奇行によって「土佐の奇人」と称され、多くの人々に影響を与えました。また、彼は明治時代の政治家、板垣退助の曾祖父としても知られています。

来歴

彼の本名は正聰であり、幼名は金四郎、字は丈右衛門です。土佐藩士である乾加助直建の長男として、高知の中島町で生まれました。母は安積彦之進の娘で、彼の家族背景は名門でした。

宝暦7年に、彼は家の惣領として御目見えを果たします。その後、父の跡を継ぎ、父が亡くなると直ちに正聰は藩士としての地位に付きました。江戸勤番を命じられた際は、事情により自らは赴かず、代理を立てました。1771年には、叔父の不正があったことから謹慎を命じられるも、数日後にはその処分を解かれました。

その後、江戸で火の御守りを拝受し、出張を命じられるなど、彼の職務は続きましたが、1787年には奢侈禁止令が発令され、ここから彼の奇行が始まります。彼はありふれた制約に反抗し、個性的な行動を取ることで知られました。1805年、文化2年8月23日に79歳で亡くなりました。

逸話

乾正聰の人物像を象徴する逸話がいくつか残されています。彼は強い持ち味と反骨精神で知られ、周囲を驚かせました。特に「駕籠」の逸話は有名です。当時、幕府は武士に対して駕籠の使用を禁じていましたが、正聰は釣りを楽しむために、自ら小舟を舟頭として使い、「これは駕籠ではなく舟である」と言い張ったとする話です。これは彼のちょっとした機知によるユーモアで、町の人々にも笑いをもたらしました。

また、その娘の婚礼の際には、贅沢を避ける風潮に従い、「手軽な風呂敷包み程度」との約束があったにもかかわらず、乾家は全ての婚礼用具を巨大な風呂敷で覆い、さらには花嫁の駕籠までも包み込んで行列を成したという逸話も有名です。この行動は土佐の人々に驚きと笑いを引き起こしました。

兵学に通じる

乾正聰は兵学にも精通しており、古今の兵法書を多く集めていました。その数は驚くべきことに、数櫃に及んだと言われています。その書籍は後の曾孫、板垣退助によって受け継がれ、彼もまたその教えから多くの影響を受け、戊辰戦争において活用したとされています。

乾家の松の話

ある日、乾家の松に関して特筆すべき逸話があります。家老が新しい楼閣を建て、乾家の松がその視界を遮っていることに気づくと、使者を送り剪定を依頼しました。正聰は一見丁寧に応じましたが、結局その松を根元から切り倒してしまいます。これは家老にとって驚愕な出来事で、何か意図があるのではないかと恐れられましたが、彼は正聰の主張に圧倒され、最終的には自身で楼閣を壊すことになったと伝えられています。

家族

正聰は家族との関係も深いものでした。曾祖父は乾正方、祖父は乾正清、父は直建、そして夫人や子どもたちを持ちました。特に彼の曾孫である板垣退助は、近代日本の政治家として名を馳せました。このように正聰は、彼自身だけでなく、後世の重要な人物にも影響を及ぼした家系を持っていたのです。

結び

乾正聰の生涯は、ただの藩士としての枠を超え、豊かな人間ドラマとエピソードを持つ非常に魅力的なものです。彼の短い生涯に多くの知恵とユーモアを持っていたことは、今も多くの人々の記憶に生き続けています。土佐の地で語り継がれる彼の物語は、単なる歴史の一部でなく、独自の文化の象徴ともいえる存在です。

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