亀尾英四郎

亀尾英四郎：ゲーテ研究に捧げた生涯と、戦時下の悲劇

亀尾英四郎（かめお えいしろう）は、明治28年（1895年）に鳥取県米子市で生まれたドイツ文学者です。東京高等学校教授として教鞭を執り、ゲーテ研究の第一人者として知られました。しかし、その生涯は昭和20年（1945年）、戦時下の食糧難の中で栄養失調により幕を閉じました。

若き日の研鑽とゲーテとの出会い

米子中学校、岡山の第六高等学校を経て、大正10年（1921年）に東京帝国大学文学部独文科を卒業。早くからゲーテに心酔し、研究に没頭しました。大正11年（1922年）には、ゲーテ研究の貴重な入門書とされるヨハン・エッカーマン著『ゲエテとの対話』を27歳という若さで完訳し、その才能を世に知らしめました。

また、坪田譲治、相良守峯らと文芸雑誌『地上の子』を創刊するなど、文学活動にも積極的に参加しました。

東京高等学校教授として

大正14年（1925年）、東京高等学校教授に就任。後進の育成に尽力する傍ら、研究活動も精力的に続けました。しかし、日中戦争、そして太平洋戦争へと時代は進み、次第に社会は困窮の色を濃くしていきます。

戦時下の生活と信念

大東亜戦争が勃発し、食糧が配給制になると、政府は「政府を信頼して買出しをするな。闇をするものは国賊だ」と国民に呼びかけました。亀尾は、教育者として率先して国策を遵守すべきという信念を持ち、配給される食糧のみで妻子を養おうとしました。しかし、庭の小さな菜園だけでは、6人の子供たちを十分に養うことはできません。子供たちに少しでも多く食べさせようと、自らの食糧を削る日々が続きました。

栄養失調による死

昭和20年（1945年）8月末、ついに亀尾は病に倒れます。近所に住む教え子が牛乳などを差し入れましたが、手遅れでした。10月11日、栄養失調のため、帰らぬ人となりました。その死は、「“闇を食はない”犠牲、亀尾東京高校教授の死」として新聞で報道され、社会に大きな衝撃を与えました。

家族

妻の操子は、夫の死から3ヶ月後、後を追うように衰弱死しています。長男の利夫は哲学者となり、弘前大学人文学部長を務めました。

業績

亀尾英四郎は、ゲーテ研究における先駆者として、その名が記録されています。特に『ゲエテとの対話』の翻訳は、今日でも多くの人々に読み継がれています。

『ゲエテと独逸精神』起山房 1943
『亀尾英四郎全集』全2 亀尾覺編、私家版 2007.12
グリルパルツェル『サッフオ』郁文堂書店 (郁文堂対訳叢書) 1922
ヨオハン・ペエテル・エツケルマン『ゲエテとの対話』第1・2・3 春陽堂 1922-27
* エツケルマン『ゲエテとの対話抄』岩波文庫 1927

まとめ

亀尾英四郎は、ゲーテ研究に情熱を注ぎ、教育者として信念を貫いた人物でした。しかし、戦争という時代の波に翻弄され、悲劇的な最期を遂げました。彼の死は、戦争の悲惨さを物語る一例として、今も私たちの心に深く刻まれています。

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