亀田郷

亀田郷の歴史と発展

地理

亀田郷は、新潟市の中央区、東区の一部、そして江南区のほぼ全域にまたがる約11km四方、約10,000haの広大なエリアです。この地域は、かつて「地図にない湖」や「葦沼」と呼ばれた大湿地帯でした。越後平野の地形的特徴を全て備えており、横列砂丘が発達し、河道に沿った自然堤防の背後には低湿地が広がっていました。

歴史

開発の始まり

亀田郷の開発は、1598年（慶長3年）に溝口秀勝が新発田城に入ったことから始まりました。その後、新発田藩主・溝口氏による新田開発などの土地改良事業が、その後の開発の基礎となりました。江戸幕府や明治政府の調査によると、この地域の水田開発は17世紀前半と18世紀後半から19世紀前半の2つの時期に盛んに行われたと考えられています。

17世紀の開発では、主に標高の高い地域の開発が進められました。この時期の石高は、1600年（慶長5年）の3741石から1664年（寛文4年）には8130石へと、約2.17倍に増加しました。次の大規模な調査が行われた1777年（安永4年）には、石高増加量は2000石程度（約1.24倍）とペースが落ちましたが、1730年（享保15年）に紫雲寺潟の干拓事業で開削された加治川の放水路が、翌年の融雪による洪水で阿賀野川の本流となったことがきっかけで、阿賀野川の水位が下がり、周囲の低湿地帯の新田開発が加速しました。18世紀後半以降には、干陸化が進んだことで沼地であった土地の開発が進み、石高は急激に増加しました。1868年（明治元年）の調査では30210石が記録され、1777年と比較すると約2.98倍の伸び率でした。

この地域の水田開拓は、水田にする場所の周囲を小堤で囲み、その外側に用水路を築いて外水を防ぐ方式で行われました。水田は排水路や沼から泥土を客土して土地を高めましたが、開拓後も毎年客土は続けられました。19世紀末までに、農民たちは村単位で協力して水田地帯の周囲に小堤と排水路を巡らせて小さな輪中を構成するようになりました。しかし、村ごとに対策は異なっており、対立や紛争が繰り返されました。各小輪中ごとの治水は明治時代に入っても続きましたが、1886年（明治19年）に栗ノ木川に依存する81町村が合同で水利土工会を設立し、以降は地域一体となって対策が行われるようになりました。

また、この地域は1653年（承応2年）から1926年（大正15年）の間で、記録に残っているだけでも約40回もの水害に襲われています。農民は破堤・氾濫対策を求めましたが、江戸時代は周囲の地域を小藩が分立支配していたため、地域一体となった対策は困難でした。根本的な治水工事は、1927年（昭和2年）と1933年（昭和8年）の工事を待つこととなりました。

改善しない湿田地帯

1906年（明治39年）以降、地域内に排水機が順次設置されていきましたが、農民は舟を使って腰まで水に浸かりながらの農作業を強いられ、生産性が低く、命懸けの作業環境にさらされていました。過酷な環境下で造られた米は、鳥ですら口にしないことから「鳥跨ぎ」とも呼ばれるほど品質が低く、信濃川や阿賀野川で洪水が発生するたびに堤防が壊れ、大規模な被害を受けました。三年ごとに一度しか米が作れないことから、「三年一作」とも揶揄されました。この間、信濃川では大河津分水路の通水によって下流域の水量が減少し、阿賀野川でも大規模な河道改修が実施されたことにより、治水能力は改善されました。また、鳥屋野潟から信濃川に通じる栗ノ木川の分水路として新栗ノ木川が通水しましたが、亀田郷の排水は遅々として進みませんでした。

排水と乾田化

1948年、戦前から進められていた農地整備事業の一環として、鳥屋野潟東端部から栗ノ木川を通じて機械による強制排水を行う「栗ノ木排水機場」が稼働を開始しました。合わせて域内には土地改良区が組織され、農地を統一規格に整備することとなり、用排水路など疏水の整備も進められました。排水機場の設置は地域の悲願でもあり、完成の前年である1947年10月、昭和天皇の戦後巡幸の際には、天皇の視察先の一つにも選ばれています。

これらの対策によって、亀田郷の排水は急速に進捗し、1955年頃には水田の区画化がほぼ完了しました。牛や馬、機械による農作業が可能となり、舟農業からの脱却を果たし、1957年には乾田化が宣言されました。米をはじめとする農産物の生産性が大幅に改善された上に、品質も大きく向上しました。これと併せて、鳥屋野潟周辺に多数存在した小規模湖沼の干拓と埋め立ても進められ、都市開発が急速に進捗しました。広大な平地であることから、農地のみならずニュータウンやロードサイド店舗、工業団地などが林立しました。

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