予備

刑法における予備（よび）

刑法上の「予備（よび）」とは、犯罪を完遂しようとする意図をもって、その実行行為に着手する前の準備段階で行われる各種の行為を指します。刑法学では、犯罪をその進行度合いに応じていくつかの段階に分けますが、予備はこの段階の比較的初期に位置づけられます。そして、この予備行為自体を処罰の対象とする規定を「予備罪」と呼びます。

予備罪の処罰とその例外

犯罪の実行行為にまで至っていない予備の段階では、法益侵害の危険性は、未遂の段階に比べてまだ非常に低いと考えられます。このため、日本の刑法では、原則として予備行為は処罰の対象とされていません。しかし、社会に与える影響や危険性が極めて大きい一部の重大犯罪については、例外的に予備行為も犯罪として処罰されます。これらの予備罪については、実行行為が行われる前の段階であるため、実行行為を途中でやめた場合に適用される「中止犯」の規定は成立しません。

刑法典において予備罪が明文で規定されている主な例としては、以下のような犯罪が挙げられます。

殺人予備罪（刑法第201条）
身代金目的拐取等予備罪（刑法第228条の3）
強盗予備罪（刑法第237条）
内乱予備罪（刑法第78条）
外患予備罪（刑法第88条）
私戦予備罪（刑法第93条）
放火予備罪（刑法第113条）

また、刑法に直接規定があるわけではありませんが、通貨偽造準備罪（刑法第153条）は、通貨を偽造する準備行為を処罰するものであり、予備に類する性格を持ちます。

刑法典以外にも、破壊活動防止法第39条・第40条には予備に関する規定が見られます。さらに、凶器準備集合罪（刑法第208条の3）は、直接的には集団で凶器を準備・集合する行為を処罰するものですが、その背後には殺人罪や傷害罪などの実行予備を処罰しようとする意図が含まれていると解されています。

特殊な形態の予備罪

上記の一般的な予備罪とは性格を異にするものとして、私戦予備罪（刑法第93条）や凶器準備集合罪（刑法第208条の3）があります。これらの罪は、単に将来の犯罪のための準備行為を処罰するだけでなく、その行為自体が社会に公共の危険を生じさせる側面をも持つとされています。予備行為であると同時に、それ自体が公共の安全を脅かす行為としても捉えられている点が特徴です。

予備以外の処罰類型：準備、陰謀、計画

犯罪の実行着手前の段階を捉える処罰類型は、予備の他にも存在します。主なものとして、「準備」「陰謀」「計画」が挙げられます。

準備: 予備と類似しますが、通貨偽造準備罪のように、他人に対して犯罪を実行させる目的で行われる準備行為（他人予備）も含まれると解釈されることがあります。
* 陰謀・計画: これらの概念は、複数の者が犯罪を実行するために話し合い、合意を形成する段階を指します。外形的な準備行為に着手するよりも前の、共犯者間の謀議の段階を処罰するものです。

これらの類型は、それぞれ処罰される対象行為の具体性や段階、関与者の数などが異なります。

予備段階での自首減免

予備段階は、犯罪の実行行為が行われる前の初期段階であり、この時点で行為者が自ら罪を告白し、捜査機関に発覚していない事実を申告すること（自首）は、法益侵害を未然に防ぐ、あるいはその被害を最小限にとどめる上で非常に有効です。そのため、予備段階での自首に対しては、通常の自首に関する刑法第42条第1項（任意的な刑の軽減）よりも有利な、特別な減免規定が設けられている場合があります。

具体的な犯罪によっては、自首した者に対して刑が必ず免除されると定められているもの（例：外患誘致陰謀罪 刑法第88条）、必ず免除または軽減されると定められているもの（例：身代金目的拐取等予備罪 刑法第228条の3）、あるいは情状によって任意的に免除することができると定められているもの（例：放火予備罪 刑法第113条、殺人予備罪 刑法第201条）など、その効果は様々です。これらの規定は、早期の段階での自発的な中止や情報提供を促し、犯罪被害の拡大を防ぐという刑事政策的な目的を持っています。

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