予型

予型（よけい）は、聖書解釈、特に予型論的解釈において中心的な役割を果たす概念です。ギリシア語の「τύπος」（typos）、ラテン語の「typus」に由来し、英語では「type」と訳されます。この概念は、旧約聖書に記された様々な出来事や人物が、新約聖書におけるイエス・キリストや教会、あるいはキリスト教的な救済の出来事を予示していると解釈します。正教会では「預象」あるいは「予象」という言葉が用いられることもあります。

予型の理解において重要な点は、単なる比喩や寓意（アレゴリー）とは異なるということです。アレゴリーは、物語やイメージが持つ象徴的な意味を解釈することに焦点を当てますが、予型は、旧約の出来事が歴史的な事実として実際に起こった上で、新約の出来事の「型」や「予兆」として機能すると捉えます。つまり、旧約聖書の出来事は、歴史的な出来事としての意味を持ちながら、同時に未来の出来事を指し示す二重の意味を持っていると解釈されるのです。

たとえば、旧約聖書に登場する「青銅の蛇」は、荒野をさまようイスラエルの民を癒したとされています。この出来事は、新約聖書において、イエス・キリストが十字架上で挙げられ、それによって信じる者が救われるという出来事の予型として解釈されます。青銅の蛇は、単なる癒しの象徴ではなく、キリストによる救いを予告する具体的な「型」として位置づけられます。

予型論的な解釈は、聖書全体を一つの連続した物語として理解するための重要な鍵となります。旧約聖書の出来事が新約聖書における出来事の予兆であると理解することで、聖書全体の構造や意味がより深く理解できるようになります。

予型の例は他にも多く存在します。例えば、アダムは「来るべき者の型」（ローマ人への手紙5:14）として、キリストの予型であると考えられます。また、ノアの箱舟は、洗礼の予型として解釈され、出エジプトの出来事は、キリストによる救済の予型として解釈されます。これらの解釈は、旧約と新約の連続性を示すものであり、聖書のメッセージ全体を理解する上で重要な役割を果たします。

予型論的解釈は、単に聖書の物語を歴史的な出来事として理解するだけでなく、それが持つ神学的な意味を深く探求するための手段となります。それぞれの出来事が持つ意味を深く理解することにより、信仰生活においても多くの示唆を得ることができるでしょう。

関連事項

ヨナ書: ヨナが巨大な魚に飲み込まれた後、三日目に吐き出された出来事は、イエス・キリストが死後三日目によみがえったことの予型として解釈されます。
青銅の蛇: 荒野で神の怒りによって死にかかっていたイスラエルの民が、モーセが作った青銅の蛇を見ることで癒されたという出来事は、十字架にかけられたイエス・キリストを信じることで救われることの予型として解釈されます。


参考文献

馬杉宗夫 『黒い聖母と悪魔の謎』 講談社〈講談社現代新書〉、1998年。
若桑みどり 「預言者の図像とその肖像」『哲学』12号、哲学書房、1991年、84-116頁。

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