ヨナ書

ヨナ書

『ヨナ書』は旧約聖書に収められた文書の一つで、ユダヤ教では「後の預言者」、キリスト教では預言書に分類されます。キリスト教においては、十二小預言書の中で5番目に位置づけられています。全4章から構成され、預言者ヨナと神とのやり取りを中心に物語が展開されます。特に、ヨナが大きな魚に飲み込まれるというエピソードは広く知られています。著者は不明です。

この書は、異邦人を主人公とする『ルツ記』と同様に、イスラエルの民の選民思想や特権意識を否定する内容を含んでおり、当時のユダヤ人にとっては驚くべきものでした。その点で、旧約聖書の中でも異彩を放つ存在となっています。

構成

物語は大きく二つに分けることができます。

前半（1～2章）: ヨナ自身が悔い改める物語が描かれています。
後半（3～4章）: ヨナの宣教によってニネベの人々が悔い改めたこと、そしてその後の出来事が描かれています。

主人公

『列王記下』14章25節によれば、ヨナは預言者としてイスラエルの領土回復を予言した人物です。実際に、イスラエル王ヤロブアム2世の時代に、イスラエルは失地を回復しています。

主題

ヨナ書には、主に3つの主題が読み取れます。

1. ヨナの悔い改め: 神の指示に従わなかったことや、ニネベの人々が悔い改めたことに不満を抱いたヨナが、最終的に自らの行いを悔い改める過程が描かれます。
2. 神の普遍的な愛: 神はイスラエルの民だけでなく、異邦人をも救おうとしていることが示されます。この点を通して、選民思想の誤りを正し、異邦人に対する偏見を捨てるべきだと説いています。
3. 神の可変性: 神は一度決定したことでも、人々の悔い改めに応じて考えを変えることがあると示しています。これは「神の不変性」という従来の神学への挑戦とも解釈できます。

神学

神学的には、選民思想の否定だけでなく、神の可変性という考え方が重要なテーマとなっています。これは、「神は一度言ったことは必ず実行する」という伝統的な考え方に対して、神は状況に応じて考えを変えるという新しい視点を提供しています。

成立年代

『ヨナ書』がいつ書かれたかは正確には特定されていません。伝統的には、預言者ヨナが活動した紀元前8世紀前半だと考えられてきました。しかし、ニネベの悔い改めについて言及があることから、遅くとも紀元前612年のニネベ陥落以前であることは確実です。また、ニネベが悔い改めたために滅亡を免れたという記述から、ニネベ陥落の直前ではないと考えられています。これらの点から、紀元前7世紀中ごろまでの成立だと推測されています。

物語

物語は、預言者ヨナが神からニネベへ行って滅亡を予告するように命じられる場面から始まります。しかし、ヨナはニネベに行くことを拒み、反対方向のタルシシュへ逃げようとします。神は嵐を起こしてヨナを懲らしめます。船乗りたちはくじ引きでヨナが原因だと知り、彼を海に投げ込むと嵐は静まります。

海に投げ込まれたヨナは、神が用意した大きな魚に飲み込まれ、3日3晩その腹の中で過ごします。その後、神の命令によって海岸に吐き出されたヨナは、改めてニネベへ向かい、神の言葉を伝えます。すると、ニネベの人々はすぐに悔い改め、神はニネベを滅ぼすのを思いとどまります。

しかし、ヨナは神がニネベの人々を赦したことに怒りを覚えます。彼はニネベの様子を見ようと、町の外に庵を建てて住んでいると、そこにひょうたんが成長し、日陰を作ってくれます。しかし、神は虫を送ってひょうたんを枯らしてしまいます。ヨナがそのことで怒ると、神はヨナがたった一本のひょうたんを惜しむのなら、12万人以上の人と多くの家畜がいるニネベを惜しまないわけがないと諭します。

イエスの説教における引用

新約聖書では、イエスがヨナに言及する場面が見られます。イエスは、「ヨナのしるし」以外には何も与えられないと語り、ヨナが魚の腹の中にいた3日間と、イエスが死んでから復活するまでの3日間を対応するものとして解釈されています。

後代への影響

『ヨナ書』は、神の慈悲がイスラエルの民だけでなく、他の国の人々にも及ぶことを示しました。また、異邦人の方が神の意思に従順であるという視点を示したことは、後にパウロに受け継がれ、キリスト教の広まりに影響を与えました。

正教会では、ヨナを記念する聖歌が歌われ、プロテスタント教会では、ヨナ書は宣教者の物語として読まれることが多いです。

さらに、『ヨナ書』の物語はイスラム教の『クルアーン』にも登場し、ヨナは預言者ユーヌスとして登場します。

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