予防拘禁

予防拘禁とは

予防拘禁（英：preventive detention）とは、犯罪を未然に防ぐことを目的として、特定の人物を拘束する刑事司法上の処分です。これは、主に常習的な犯罪者や、触法行為を行う可能性のある精神障害者などを対象とし、社会の安全を維持するために行われます。

概要

予防拘禁は、犯罪を犯す可能性のある人物を「犯罪者予備軍」として扱い、刑期満了後も拘束を続ける制度です。この制度は、政治的な理由で危険人物と見なされた人を、通常の刑法で裁くことなく拘束するために利用される危険性も指摘されています。

基本的には、懲役などの自由刑を終えた犯罪者に対し、再犯の危険性がある場合に、刑期満了後も引き続き拘束します。また、触法行為を行うおそれのある精神障害者を治療のために拘束する制度としても用いられます。これらの拘束は、刑罰とは異なるものの、社会の安全を確保するための特別な予防措置として行われます。

さらに、既に刑期を終えて釈放された者の再拘束や、犯罪を構成していない者であっても、思想犯やテロ対策の名目で、司法手続きを経ずに行政権限だけで拘束する場合があります。拘束期間に制限がない場合、予防拘禁が更新され続け、行政が裁判なしに事実上の終身刑を課すのと同じ状況になることもあります。

各国での事例

アメリカ

アメリカ合衆国では、第二次世界大戦中に日系人の強制収容が行われました。また、アメリカ同時多発テロ事件後には、外国人に対してテロ対策の名目で予防拘禁が実施されました。

カナダ

カナダでは、裁判所が危険と判断した人物の刑期が明確にされないことがあります。

イギリス

予防拘禁制度を最初に導入したのはイギリスです。

イスラエル

イスラエルでは、「行政拘禁」や「行政拘束」という名目で、テロ対策を理由にパレスチナ人を拘束しています。この制度は、犯罪の有無を問わず、軍事命令によって執行され、拘束理由の開示や弁護活動の制限など、人権上の問題が指摘されています。

拘束期間は6ヶ月で、更新によって無期限に延長可能です。2024年11月現在、3443人のパレスチナ人が行政拘束されており、ユダヤ人の入植者も対象となるケースがありますが、国防相は入植者を対象外とする発表をしています。

インド

インドでは、「治安、国防等を害する行為」に対し、州政府の承認なしで最大12日、事後承認があれば最大12ヶ月間の予防拘禁が可能です。一部の紛争地域では24ヶ月まで拘束されることがあります。

スリランカ

スリランカでは、「テロ行為および非合法活動」予防を目的とした拘禁が認められています。拘束期間は3ヶ月で、最大18ヶ月まで更新可能です。また、非常事態令に基づく拘禁もあり、無期限で拘束される可能性があります。

大韓民国

大韓民国では、社会安全法によって保護監護処分が設けられ、予防拘禁制度を継承しています。拘束期間は2年間で、更新はなくなっています。

中華人民共和国

中国における予防拘禁の詳細は不明な点が多いです。

日本

日本では、かつて治安維持法に予防拘禁制度が規定されていました。この制度は、治安維持法違反で刑期を終えた者や執行猶予を受けた者が、再び罪を犯す危険性が高いと判断された場合に適用されました。拘禁期間は2年間で、裁判所の決定により更新が可能であり、事実上の無期限拘束も可能でした。予防拘禁所は、豊多摩刑務所内に設けられ、後に府中刑務所に移転しました。1945年10月、治安維持法の廃止に伴い、予防拘禁制度も廃止されました。

ネパール

ネパールでは、破壊活動防止令により、郡知事による1年間の予防拘禁が認められています。

パキスタン

パキスタンでは、「パキスタン国家の安全」にかかわるものに対し予防拘禁が可能です。拘束期間は通常3ヶ月で、6ヶ月毎に審査されます。

バングラデシュ

バングラデシュでは、特別権限法によって予防拘禁が規定されています。拘束期間は6ヶ月毎に審査されます。

南アフリカ

南アフリカでは、アパルトヘイト時代に、政治的対抗勢力に対して予防拘禁が行われることがありました。

予防拘禁の問題点

予防拘禁制度は、犯罪を未然に防ぐという目的がある一方で、人権侵害の可能性も指摘されています。特に、政治的な理由で利用されたり、司法手続きを経ずに拘束されたりする場合には、恣意的な運用につながる危険性があります。また、無期限の拘束や弁護活動の制限は、基本的人権を著しく侵害するとして国際的な批判の対象となることもあります。