豊多摩刑務所

豊多摩刑務所：歴史と記憶

豊多摩刑務所は、大正時代から昭和時代にかけて、現在の東京都中野区新井に存在した刑務所です。時代によって豊多摩監獄や中野刑務所とも呼ばれていました。

概要

豊多摩刑務所は、特に1925年（大正14年）の治安維持法制定以降、多くの思想犯が収容されたことで知られています。1933年（昭和8年）9月時点では、278人もの左翼運動家が収容されていました。1941年（昭和16年）には、治安維持法が改正され、刑期を終えた後も「非転向者」を拘禁できる予防拘禁制度が発足。豊多摩刑務所内には拘禁所が設けられ、刑期終了後も拘禁され続ける人々がいました。

1945年（昭和20年）10月、連合国軍最高司令官総司令部の命令により、思想犯は全て釈放されました。当時、府中刑務所に拘禁されていた共産党員の志賀義雄は、豊多摩刑務所には「蝮」と呼ばれる監視部長がいたと語っています。

現在、刑務所の跡地は約四万坪の平和の森公園および東京都下水道局中野水再生センターとなっています。研修所敷地内には、監獄の表門が保存されており、2021年（令和3年）に旧豊多摩監獄表門として中野区有形文化財に指定されました。

沿革

1910年（明治43年）3月：市ヶ谷監獄が手狭になったため起工（設計：後藤慶二）。
1915年（大正4年）5月：竣工。
1916年（大正5年）：豊多摩監獄と改称。
1921年（大正10年）：豊多摩刑務所（英訳 Toyotama Prison）と改称。
1923年（大正12年）9月：関東大震災により獄舎が倒壊。
1931年（昭和6年）：復旧工事完了。
1941年（昭和16年）5月：拘禁所が設置。初代所長は東京控訴院検事であった中村義郎。
1945年（昭和20年）5月：東京大空襲により全焼、囚人は宮城刑務所へ送致。
1946年（昭和21年）3月：GHQが接収、アメリカ陸軍第8軍刑務所（U.S. Eighth Army Stockade）として使用。接収の間、埼玉県浦和市の前橋刑務所浦和刑務支所跡の刑務所に「豊多摩刑務所」の名が冠されていた。
1956年（昭和31年）9月25日：米陸軍刑務所閉鎖、接収解除・返還。
1957年（昭和32年）7月1日：中野刑務所（英訳 Nakano Prison）と改称。同時に、埼玉県浦和市の豊多摩刑務所は浦和刑務所と改称。
1961年（昭和36年）1月21日：刑務官が撲殺され2人の受刑者が脱獄。翌22日、2人とも逮捕された。
1983年（昭和58年）3月：閉鎖。

著名な収監者

豊多摩刑務所には、数多くの著名な人物が収監されました。

大杉栄
荒畑寒村
亀井勝一郎
中野重治
三木清
壺井繁治
小林多喜二
李奉昌
埴谷雄高
河上肇
大塚金之助
大川周明
小原十三司
藤本敏夫
戸田城聖

正門

現在唯一残っている正門は、司法省技師の後藤慶二によって設計され、1915年（大正4年）に完成しました。後藤は辰野金吾に師事した技師でしたが、1919年（大正8年）に亡くなったため、現存する唯一の後藤作品となっています。高さ約9m、幅約13m、奥行き約7mのこの門には、日本独自の覆輪目地が用いられています。

2021年（令和3年）6月4日、中野区有形文化財に指定されました。

現在

豊多摩刑務所は閉鎖されましたが、その歴史は平和の森公園として一部が保存され、記憶されています。正門は文化財として保存され、後世に語り継がれています。

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