分村移民

分村移民とは

分村移民とは、1938年（昭和13年）から始まった、満州開拓団への移民政策の一環です。この政策は、農村の経済的な困窮を解決し、同時に満州への移住を促進することを目的としていました。具体的には、各町村を対象に、その地域における「適正農家」と「過剰農家」を区別し、「過剰農家」を旧満州・内モンゴル地域へと移住させるというものでした。

背景

1929年の世界恐慌に端を発した昭和恐慌は、日本の農村に深刻な打撃を与えました。農民を救済するため、1932年（昭和7年）に農林省は「農村経済更生運動」を開始しました。一方、加藤完治らは、疲弊した農村を救済するには移民政策が不可欠であると考え、屯田兵移民による満州国維持と対ソ戦兵站地の形成を目指す関東軍と協力して満蒙開拓団を発案しました。当初、財政的な理由から反対論が強かったため、1936年までは試験的な移民事業にとどまっていましたが、二・二六事件により政治の主導権が軍部に移ると、反対論は弱まりました。広田弘毅内閣は、満蒙開拓団事業を七大国策に位置づけ、本格的な移民事業へと舵を切りました。

分村移民政策の概要

分村移民政策は、「農村経済更生運動」と満蒙移民事業が結びついたものです。この政策では、各町村ごとに「適正規模農家」を算出し、それに基づいて「適正農家」と「過剰農家」を決定しました。「適正農家」は農村に残って育成され、「過剰農家」は満州へと送られました。

具体的には、以下の計算式で「過剰農家」数が算出されました。

各町村の総農家数 － （各町村の耕地総面積 ÷ 「適正規模農家」の平均耕地面積） ＝ 「過剰農家」数 ＝ 「旧満州・内モンゴルへ送出する農家」数

この政策の根底には、土地と農家数を単純に比較し、土地不足を解消するには満蒙移民しかないという考え方がありました。しかし、この考え方は、小作貧農の土地飢餓の根本的な原因である地主的土地所有制を無視したものであり、分村移民政策は、地主的土地所有制を温存したまま、土地飢餓を解消するために「過剰農家」を国外へ放出するという手段を選んだと言えます。

分村移民の展開

分村移民政策の推進により、拓務省は農林省の協力を得て、移民政策を政府の中心的な政策とすることができました。各県、各郡、各市町村単位で具体的な動員数と方法が明確化され、地方の官僚組織を活用した移民の大量送出が可能となりました。これは、地方から中央レベルでの国家総動員の一環としての移民事業展開を意味していました。

その後の経緯

分村移民計画が成立すると、農林省は農村経済更生運動の一環として分村移民方針を確認し、補助金交付の細則を定めました。これにより、満蒙移民事業は、官僚組織や関係機関による募集体制によって強力に推進されることになりました。

しかし、日中戦争による戦時体制下では、労働力不足のため移民候補者が減少し、府県や市町村は、国からのノルマを達成するために、個人の意思に基づく移民募集だけでなく、共同体規制を利用した「動員」としての側面を強めました。

大日向村の事例

1939年の長野県大日向村の分村移民は、単一の村で一つの満州開拓団を編成したモデルケースとなり、和田伝の小説『大日向』は、当時の満州への関心を高める役割を果たしました。

まとめ

分村移民は、日本の農村問題と満州開拓という二つの課題を同時に解決しようとした政策でしたが、その背景には、地主制温存という矛盾や、戦時体制下における強制的な動員という側面もありました。この政策は、多くの農民を異国の地へと送り出し、その後の歴史に大きな影響を与えました。

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