二十一世紀の起源

21世紀への問いかけ：ゴダールの短篇映画『二十一世紀の起源』

ジャン＝リュック・ゴダール監督による短篇映画『二十一世紀の起源』（L'Origine du XXIème siècle）は、2000年、第53回カンヌ国際映画祭の開会式を飾った作品として知られています。20世紀の終わりと21世紀の始まりという節目に制作された本作は、ゴダール監督のキャリアにおいて重要な位置を占めるだけでなく、映像表現の新たな地平を切り開いた作品として高く評価されています。

本作は、フランスのテレビ局カナル・プリュスの提供の下、ゴダール監督の常連製作会社であるヴェガ・フィルムによって制作されました。ゴダール監督は、10年もの歳月を費やして完成させた大作『ゴダールの映画史』で培ったアーカイヴ・フッテージの編集技術を駆使し、本作を制作しています。

映画は、1900年から2000年までの1世紀を15年刻みで遡る構成をとっています。1900年、1915年、1930年、1945年、1960年、1975年、1990年と、それぞれの時代の映像が鮮やかに映し出されます。しかし、これらの映像は単なる歴史の羅列ではありません。各時代の映像には、必ず戦争の影が付きまとっています。人類の歴史において、平和な時代など存在しなかったのかという、痛烈な問いかけが込められています。

本作で使用されている映像は多岐に渡ります。スタンリー・キューブリックの『シャイニング』といった名作映画の引用から、第二次世界大戦やベトナム戦争といった歴史的事件のニュース映像、さらにはレーニンの葬儀やヒトラーのカラー映像など、様々な映像素材が巧みに編集されています。また、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争といった現代の戦争の映像も登場し、歴史の連続性と、繰り返される悲劇を改めて認識させられます。さらに、ゴダールの代表作『勝手にしやがれ』からの引用や、ポルノ画像なども含まれており、ゴダール監督独自の視点と、その大胆な映像表現が際立っています。

音楽は、電子音楽で知られるハンス・オッテが担当しており、その独特なサウンドが映画の世界観をさらに深めています。また、ナレーションでは、A・E・ヴァン・ヴォークト、アンリ・ヴァカン、アンリ・ベルクソン、ジョルジュ・バタイユ、ジャン＝ベニーニュ・ボシュエ、ピエール・ギュヨタといった、様々な分野の著名な思想家や作家のテクストが読み上げられます。ナレーションを担当しているのは、小説家ピエール・ギュヨタと、女優イザベル・ユペールの夫であるロナルド・アリエル・シャマです。これらのテクストは、映画全体のテーマを多角的に考察し、視聴者に深い思索を促す役割を果たしています。

『二十一世紀の起源』は、13分という短い上映時間の中に、膨大な情報量と、ゴダール監督の鋭い批評精神が凝縮されています。20世紀の歴史を鋭く見つめ直し、21世紀への警鐘を鳴らす本作は、現代社会における戦争や暴力、そして歴史の重みを改めて考えさせる、力強いメッセージを私たちに伝えています。2006年には、ゴダールとアンヌ＝マリー・ミエヴィルの短編集DVDに収録され、世界中で広く鑑賞できるようになりました。この作品は、単なる映画作品としてだけでなく、21世紀の始まりにおける歴史と人間のあり方に対する問いかけとして、これからも長く語り継がれるべき作品と言えるでしょう。

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