井上明

井上明（いのうえ あきら）は、1951年4月3日に愛媛県松山市で生まれ、元学生野球の投手として活躍した後、朝日新聞の記者となった人物です。

彼の名前が広く知られることになったのは、松山商業高校3年次だった1969年の出来事です。この年の夏、第51回全国高等学校野球選手権大会の決勝において、彼は青森県代表の三沢高校のエース、太田幸司投手と対戦しました。この試合は、互いに一歩も譲らない投手戦となり、規定の9回では決着がつかず、延長戦に突入。井上投手は延長18回まで一人で投げ抜きましたが、両チーム無得点のまま0対0の引き分けとなりました。この試合で彼が投じた球数は232球にも上り、対する太田投手も262球を投げるという壮絶な投げ合いでした。当時の大会規定により、勝負は翌日の再試合に持ち越されました。

再試合も両投手が先発しましたが、井上投手はチームメイトの中村哲投手のリリーフを仰ぎました。しかし、チームは4対2で勝利を収め、全国制覇を果たしました。この決勝戦と再試合は、高校野球史に残る名勝負として、今も多くのファンに語り継がれています。夏の甲子園での激闘後、井上投手は太田投手らとともに全日本高校選抜の一員として、ブラジル、ペルー、アメリカへの遠征に参加しました。秋の長崎国体では、準決勝で再び静岡商業の松島英雄投手と対戦し、延長12回まで投げ合いましたが、サヨナラ負けを喫しています。

松山商業では、2年夏にもエースの一人として甲子園に出場しており、同期の中村投手と共にチームを牽引しました。3年夏は、三塁手の谷岡潔選手、遊撃手の樋野和寿選手、捕手の大森光生選手といった同期の野手陣と共に、準々決勝で静岡商業を、準決勝で若狭高校を破り、決勝まで駒を進めました。

高校卒業後、井上選手は樋野選手や大森選手と共に明治大学へ進学し、東京六大学野球リーグで投球を続けました。大学4年時の1973年秋季リーグでは、チームの優勝に貢献しています。東京六大学リーグでの通算成績は、41試合に登板し11勝8敗、防御率は2.33、奪三振は55を記録しました。大学での同期には、上田芳央投手や今久留主邦明捕手らがいました。

大学卒業後は、社会人野球の三菱重工長崎に入社しましたが、野球を続けることを断念し、退社しました。そして、1975年に朝日新聞社へ入社。記者としては、高校野球をはじめとするスポーツ関連の取材を主に担当しました。2008年頃には大阪本社のスポーツグループに在籍し、2011年に定年退職するまで、ジャーナリストとしてスポーツ界を見つめ続けました。

定年退職後も、井上氏は高校野球との縁が続いています。2018年に開催された第100回全国高等学校野球選手権記念大会では、愛媛大会の開幕試合（松山坊っちゃんスタジアム）で単独で始球式を務めました。この際、約30年ぶりに母校である松山商業のユニフォームに袖を通し、多くのファンを沸かせました。さらに、本大会の決勝戦（阪神甲子園球場）では、因縁のライバルであった太田幸司氏と共にマウンドに上がり、記念すべき大会のフィナーレに花を添えました。

選手として、そして記者として、長年にわたり日本のスポーツ、特に高校野球の現場に深く関わってきた人物と言えるでしょう。

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