井上治典

井上治典

井上治典（いのうえ はるのり、1941年3月5日 - 2005年10月5日）は、日本の民事訴訟法学者であり、甲南大学、神戸大学、九州大学、立教大学といった名門大学で教授を歴任しました。彼の専門は民事訴訟法であり、特に多数当事者訴訟の研究において顕著な業績を残しました。神戸大学から博士（法学）の学位を取得しています。

生涯

山口県下関市で生まれた井上治典は、法曹一家に育ちました。妻と3人の息子も弁護士という、法律に深く関わる家庭環境でした。父は九州大学名誉教授であり、連合赤軍事件の弁護を担当した井上正治。母方の祖父は、九州帝国大学で刑法講座を担当した不破武夫です。

井上治典は、吉村徳重の指導のもとで研究生活をスタートさせました。当初の研究テーマは、共同訴訟として知られていた分野を「多数当事者訴訟」という新たな視点から再構築することでした。井上正三と共に「手続保障の第三の波」学派の中心人物として、精力的な研究活動を展開しました。この研究は、民事訴訟における判決効論や手続保障論に留まらず、法社会学的な視点を取り入れた新しい領域を切り開きました。

1985年から1990年まで司法試験考査委員を務めた経験も持ち、その知識と経験を活かして受験予備校の教壇にも立ちました。学生向けの演習書も多数執筆し、後進の育成に尽力しました。晩年は法科大学院の教員として、次世代の法律家育成に貢献しました。また、立教大学野球部部長として、東京六大学野球連盟理事長の職も務めました。

2005年10月5日、長男によって刺殺されるという痛ましい事件により、64歳で生涯を閉じました。

学歴

1959年 福岡県立福岡高等学校卒業
1963年 九州大学法学部法律学科卒業
1965年 九州大学大学院法学研究科修士課程（私法学専攻）修了

学位

1993年10月 博士（法学）（神戸大学）（学位論文「多数当事者訴訟の法理」）

職歴

1965年 九州大学助手（法学部）
1968年 甲南大学講師（法学部）
1970年 甲南大学助教授（法学部）
1976年 甲南大学教授（法学部）
1978年 立教大学教授（法学部）
1982年 神戸大学教授（法学部）
1991年 九州大学教授（法学部）
1996年 立教大学教授（法学部）
1996年 弁護士登録（第二東京弁護士会）
2004年 立教大学教授（大学院法務研究科）

著書

『多数当事者訴訟の法理』（弘文堂、1981年）
『これからの民事訴訟法』（日本評論社、1983年）（伊藤眞、佐上善和と共著）
『多数当事者の訴訟』（信山社、1992年）
『民事手続論』（有斐閣、1993年）
『実践民事訴訟法』（有斐閣、2002年）
『民事手続における実践と理論』（信山社、2003年）
* 『エキサイティング民事訴訟法』（有斐閣、1993年）（高橋宏志と共著）

井上治典は、民事訴訟法の発展に大きく貢献した法学者として、その業績は高く評価されています。

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