井上達雄

井上 達雄

井上達雄（いのうえ たつお）氏は、1907年11月22日に大分県津久見市に生を受けた、日本の学界および実業界における重要な人物です。会計学と商学を専門とし、特に簿記・会計学の分野で顕著な業績を残しました。教育者としては中央大学を中心に活動し、公認会計士としても実務に深く関与するなど、多方面にわたる貢献を果たしました。

学問への道は中央大学で始まり、1932年に商学部を卒業後、1934年には大学院商学研究科（旧制）の課程を修了しました。大学院修了後、母校である中央大学商学部の専任講師に着任し、研究者・教育者としての第一歩を踏み出します。1961年には、論文「原価会計論」によって中央大学より商学博士の学位を授与されました。学問の師としては、高名な会計学者である黒澤清氏や太田哲三氏の名前が挙げられ、彼らの薫陶を受けました。

キャリアの途上、1944年には海軍省経理局にて主計官を務めますが、終戦後の1945年には復員し、再び中央大学商学部教授として教壇に戻ります。戦後の混乱期を経て、会計学の普及と発展に力を注ぎました。また、1949年には公認会計士試験に合格し、理論研究にとどまらず、実務家としての視点も兼ね備えることとなります。

中央大学における要職の歴任は、井上氏の大学への貢献の大きさを物語っています。1958年には評議員に就任し、大学運営に関与するようになります。1959年から1968年にかけては商学部長を務め、学部の教育・研究体制の強化に尽力しました。並行して、1961年から1965年には大学院商学研究科長も兼任し、次代を担う研究者の育成にもあたります。さらに1963年には中央大学経理研究所の所長に就任し、1977年まで長きにわたり、同学の会計・経理分野の研究拠点発展を主導しました。この時期、1968年まで理事としても大学経営に携わっています。

大学の最高責任者としては、1967年から1968年にかけて学長を務め、さらに1968年には総長代行として大学全体を率いる重責を担いました。

1978年に中央大学を定年退職した後も、その活動は衰えることを知りませんでした。中央大学より名誉教授および経理研究所名誉所長の称号を贈られ、引き続き後進の指導や研究に貢献しました。また、1978年から1981年まで再び中央大学理事を務めるなど、母校との関係は続きました。加えて、1978年から1987年までは明治学院大学経済学部の教授として教鞭を執り、教育者としてのキャリアを継続しました。

実務界との関わりも深く、1987年から1993年にかけては井上斎藤英和監査法人（現・有限責任あずさ監査法人）の会長を務め、監査業界の発展に貢献しました。他にも、1992年から1995年には東京経営短期大学理事、1993年から1995年には朝日監査法人（現・有限責任あずさ監査法人）の最高顧問を務めるなど、その知識と経験を教育機関や実務界の発展のために惜しみなく提供しました。

井上氏は、教育・研究活動や実務に関わるだけでなく、公的な立場からも日本の会計制度の確立・発展に貢献しました。日本公認会計士協会の常任理事を務めたほか、1951年から1960年にかけては公認会計士第二次試験委員を、1954年から1987年にかけては日本商工会議所簿記検定試験委員を務めるなど、資格試験制度の整備・運営に深く関与しました。また、企業の監査役も歴任しており、1940年にダイヤモンド社、1985年から1988年にかけて東京コスモス電機の監査役を務めています。

多くの弟子を育成したことでも知られ、著名な門下生としては、後に日本公認会計士協会会長を務めた藤沼亜起氏をはじめ、富岡幸雄氏や北村敬子氏などがいます。

その長年にわたる功績に対し、数々の栄誉が授与されました。

紺綬褒章（1962年）
文部大臣表彰（1965年）
勲二等瑞宝章（1979年）
従四位（1995年、没後追贈）

井上達雄氏は、会計学者、商学者、公認会計士として、教育、研究、実務、制度設計といった多岐にわたる分野で日本の会計界・商業界の発展に貢献しました。1995年4月24日に永眠するまで、常に第一線で活躍し続けた偉大な人物です。

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