井上雪子 (女優)

井上雪子：国際色豊かな女優の生涯

1915年、兵庫県神戸市に生まれた井上雪子は、国際的な環境で幼少期を過ごしました。父親はオランダ人であったため、幼い頃から異文化に触れる機会に恵まれたと言えるでしょう。神戸市立下山手小学校卒業後、カナディアン・スクールに進学し、その後、大阪松竹楽劇部（現在のOSK日本歌劇団）に入部、鐘一子という芸名で舞台に立ちました。

1930年、鈴木傳明にスカウトされ、松竹蒲田撮影所に入社。翌年には、巨匠・小津安二郎監督作品『美人哀愁』で主演を務めるなど、華々しいデビューを飾ります。その後も数々の映画に出演し、斎藤寅次郎監督作品といった喜劇映画にも出演するなど、幅広い役柄に挑戦しました。代表作に、小津安二郎監督の『美人哀愁』『春は御婦人から』、成瀬巳喜男監督の『限りなき舗道』などがあります。これらの作品は、現在ではフィルムが現存しないものも多く、彼女の初期の活躍を知る手がかりは限られています。

しかし、1934年、井上雪子は突如として芸能界からの引退を宣言。その理由は公表されていませんが、今後の映画出演を一切行わないと明言し、多くの関係者を驚かせました。当時、若くして人気女優であった彼女にとって、この決断は非常に大胆なものだったと言えるでしょう。

引退後は俳優の斎藤達雄と結婚するも、離婚。その後の人生については、長らくその消息は不明とされていました。1995年発行の『日本映画人名事典 女優篇 上巻』においても、彼女の消息は不明のまま記載されていました。しかし、2003年、小津安二郎生誕100年記念シンポジウム「OZU 2003」に登壇。その後も、2004年には塩田明彦監督の映画『カナリア』に出演し、実に68年ぶりとなる映画復帰を果たしました。この復帰は大きな話題を呼び、再び世間の注目を集めました。

晩年は静かに暮らしていたと伝えられ、2012年11月19日、老衰のため97歳で死去。国際色豊かな生い立ち、華々しいデビューと突如の引退、そして晩年の映画復帰と、井上雪子の生涯は数々のドラマに彩られたものでした。彼女の出演作品は、日本の映画史において重要な位置を占めており、その功績は現代においても高く評価されています。特に、小津安二郎監督作品への出演は、彼女が昭和初期の映画界に大きく貢献した証と言えるでしょう。

彼女の人生は、謎めいた部分も多く、完全には解明されていない点もあります。しかし、残された資料や証言から、彼女の才能と個性を垣間見ることができ、その魅力は今もなお、多くの人々の心を掴んで離しません。井上雪子の存在は、日本の映画史に新たな一章を刻んだと言えるでしょう。彼女が歩んだ人生は、多くの後世の女優たちに影響を与え、現代の映画界にもその名を残し続けています。

出演作品（抜粋）

燃ゆる花びら (1931)
美人哀愁 (1931)
愛よ人類と共にあれ (1931)
マダムと女房 (1931)
何が彼女を裸にしたか (1931)
青春図会 (1931)
令嬢と与太者 (1932)
春は御婦人から (1932)
三十二年型恋愛武士道 (1932)
満州行進曲 (1932)
白夜は明くる (1932)
女性の切札 (1932)
南蛮なでしこ (1933)
港の日本娘 (1933)
与太者と海水浴 (1933)
玄関番とお嬢さん (1934)
東洋の母 (1934)
大学の若旦那・武勇伝 (1934)
限りなき舗道 (1934)
東京-大阪特ダネ往来 (1936)
カナリア (2004)

外部リンク

井上雪子 - allcinema
井上雪子 - KINENOTE
井上雪子 - 日本映画データベース
* Yukiko Inoue - IMDb (英語)

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