井出氏

井出氏について

井出氏は、駿河国富士郡井出郷（現在の静岡県富士宮市）をルーツとする日本の氏族です。その歴史は中世に遡り、地域領主として独自の勢力を誇りました。戦国時代には、今川氏、武田氏、後北条氏といった有力大名との関係を深め、その興亡の中で重要な役割を果たしました。江戸時代に入ると、徳川家康に仕えて幕府の要職を歴任し、多くの分家を輩出しました。

出自

『寛政重修諸家譜』（以下『寛政譜』）によれば、井出氏は藤原為憲の後裔である二階堂左衛門尉政重が、駿河国富士郡井出郷に住み着いたことに始まります。政重の子である藤九郎政種の代に井出氏を名乗るようになったとされています。井出氏の通字は「正」であり、家紋は「稲穂の丸に井桁」を用いていました。これは、当主である井出正直の時代に、外家である鈴木氏の紋と組み合わせたものとされています。

中世

中世の井出氏は、富士上方（現在の静岡県富士宮市域）において、特に北部に影響力を持っていました。大永3年（1523年）には井出盛重が大石寺に裁許を与えた文書が残されており、天文8年（1539年）には井出駒若が井出新三の富士上野関銭分を安堵されています。これらの史料から、井出氏が地域の支配権を握っていたことが伺えます。

また、井出氏は今川氏の家臣としても活動しました。花倉の乱では、井出左近太郎が栴岳承芳（後の今川義元）に反対し、玄広恵探側についたとされています。しかし、後に今川氏に仕え、河東の乱では今川軍として参戦し、戦功により富士上方の稲葉給や屋敷を安堵されています。

井出氏は、独自に被官を抱える国人領主としての性格を持っており、今川氏に軍役を負担する一方で経済的な不安も抱えていました。そのため、井出善三郎は子である井出千熊を井出一族の井出惣左衛門尉の娘と婚約させ、知行を譲渡するなど、家勢の維持に努めました。井出惣左衛門尉は酒屋を経営するなど、多様な経済活動を行っていました。

武田氏が今川氏との同盟を破棄し駿河に侵攻すると、井出氏は富士氏が城主を務める大宮城（富士城）に籠城し、武田氏と戦いました。これらの功績に対して、今川氏真から感状が贈られています。しかし、今川氏は勢力を盛り返すことはできず、滅亡へと向かいました。今川氏が衰退していく中で、井出氏は後北条氏の庇護を受けるようになり、北条氏政から上野筋での戦いにおける軍役に対する感状が贈られています。駿河侵攻の最中の大宮城の戦いでは、当主の井出正直が戦死しました。

その後、正直の子である井出正次は徳川家康に召し抱えられ、天正11年（1583年）には富士郡に発給される徳川家康朱印状の奉者となり、富士郡を支配する立場となりました。正次は富士郡の北山用水の開削や、富士金山の管理など、地域における多様な管理を行いました。

近世

近世初期には、井出家から多くの分家が生まれました。『寛政譜』には、井出家の隆盛に大きく貢献した井出正次に関する記述や、その後の分家に関する家譜が記されています。

井出正次は駿河代官、三島代官、駿府町奉行を歴任し、伊豆国君沢郡の采地は子孫に代々継承されました。代官職は正次の甥である井出正信が継ぎ、以後、同家で世襲しました。

近世初期に多くの分家が創設されたため、同族で幕府の要職に就く者も多く現れました。井出正興は大番組頭、先手鉄砲頭を、井出正雅は奥右筆頭、御納戸頭を、井出正易は桂昌院御方広敷番頭、井出延政は西城裏御門番頭、井出政峯は小姓組頭をそれぞれ務めています。

代官を世襲した井出家（正俊系）は大宮代官を世襲するようになりますが、正基の代で断絶し、同時に大宮代官も廃止されました。

井出館

井出館は、源頼朝が富士の巻狩を行った際に宿所を置いたと伝えられる場所です。井出家の一部は現在、「井出家高麗門及び長屋」として、富士宮市の指定文化財に指定されています。

まとめ

井出氏は、中世から近世にかけて富士地方で活躍した有力な氏族です。地域領主として力を持ち、戦国大名との関係を深め、江戸時代には幕府の要職を歴任しました。井出氏の歴史は、地域の歴史と深く結びついており、その足跡は現在も多く残されています。

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