井手久登

井手 久登（いで ひさと）は、1936年9月9日に東京府（現在の東京都）に生まれた、日本の著名な造園・緑地学の研究者であり、生態学者、そして教育者です。長年にわたり東京大学で教鞭をとり、同大学名誉教授の称号を授与されています。また、日本学術会議会員を務め、農学博士号を取得しています。経済史学者の大塚久雄は岳父にあたります。

学歴と職歴

井手氏は、1961年に東京大学農学部を卒業しました。卒業論文では庭木の配置について研究しています。その後、同大学大学院に進学し、修士課程では造園樹木の耐潮性、博士課程では農業地域の景域保全に関する植物社会学的研究を行い、それぞれの課程を修了しました。1971年に博士号を取得後、東京大学農学部園芸学第二講座の助手に就任しました。

東京大学では、1974年から1994年まで農学部助教授を務め、1994年から1997年まで同農学部教授、さらに1996年からは大学院農学生命科学研究科教授として、長年にわたり研究と教育に尽力しました。

東京大学を退官後も、2003年から2005年まで早稲田大学理工学術院の教授を務めるなど、後進の指導と研究活動を継続しました。2005年以降は、早稲田大学理工学総合研究センターの客員教授としてその知見を共有しています。

研究活動と貢献

井手氏の研究活動は非常に多岐にわたりますが、一貫して生態学的な視点からのアプローチを重視しています。主な研究テーマには、生態学的土地利用計画、農村計画学、緑地環境計画などがあります。特に、造園系文化財の保護と現地保存、およびその環境保全に関する研究は重要な貢献の一つです。

また、都市緑化や緑地の保全、植物の分布、果樹の変異、生垣の役割、緑環境や緑景観の形成、保存樹や街路樹の保全といった身近な緑に関わる研究から、生物の生活環、さらにはナショナル・トラストのような土地や景観の保全に関わる社会的運動まで、幅広い分野で研究を進めました。

社会的な貢献としては、首都機能移転に関する環境問題の研究会で座長を務めるなど、国の重要な政策に関わる環境問題にも深く関与しました。

学会活動と受賞

井手氏は、日本の造園・緑地学、都市計画、農村計画といった関連分野の主要な学会で要職を歴任しました。

1992年には農村計画学会の会長を務めました。
1993年から1995年にかけては、(社)日本造園学会の会長として学会の発展に貢献しました。
1995年には日本都市計画学会の副会長を務めています。
日本公園緑地協会の公園緑地研究委員会委員長も務めました。

これらの学会活動を通して、分野横断的な連携や研究の推進に大きな役割を果たしました。

その長年の研究成果と貢献は高く評価されており、様々な賞を受賞しています。

1964年には日本都市計画学会計画設計部門石川賞を受賞し、キャリアの初期から注目を集めました。
2001年には日本都市計画学会功績賞を受賞しています。
2014年には、みどりに関する研究で顕著な功績を挙げた者に贈られる第8回みどりの学術賞を受賞しました。

これらの受賞は、井手氏が学術界および実社会に与えた影響の大きさを物語っています。

主な著作

井手氏の研究成果や思想は、数多くの著作として発表され、多くの研究者や学生に影響を与えています。代表的な著書には以下のようなものがあります。

『緑地保全の生態学』(1980)
『緑地生態学―ランドスケープ・エコロジー』（亀山章氏と共著、1993）
『自然立地的土地利用計画』（武内和彦氏と共著、1985）
『緑地環境科学』(1997)
『造園学』（高橋理喜男氏らと共著、1986）
『プライド・オブ・プレイス (SD選書)』（シヴィック・トラスト著、井手正子氏と共訳、1976）
『景域保全論―農業地域の景域保全に関する植物社会学的事例研究』(1971)
『公共トイレと環境計画』(1987)
『河川生態環境評価法』（東京大学出版会、2000）
* 『地方都市再生の戦略』（早稲田大学出版部、2001）

これらの著作は、緑地計画、環境保全、都市計画、農村計画など、多岐にわたる分野における井手氏の深い知見と、生態学的な視点からのアプローチの重要性を示しています。

井手久登氏は、日本の緑地環境科学の発展に不可欠な貢献をした研究者であり、その業績は今日においても多くの研究者や実務家に影響を与え続けています。

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