交流居住

交流居住（こうりゅうきょじゅう）

交流居住とは、都市に生活の本拠を持つ人々が、元の住まいを維持しながら、田舎など農山漁村地域にもう一つの生活拠点を持つライフスタイルを指します。これは単なる別荘利用や観光とは異なり、滞在先での仕事や趣味、余暇活動に加え、地域住民との積極的な交流を通じて、都市と田舎の双方で豊かな生活を実現することを目指すものです。日本の総務省が推進する地域活性化施策の一つとして位置づけられています。

経緯と概念の変遷

交流居住の考え方は、もともと「マルチハビテーション」（多拠点居住）という概念から発展しました。この概念は、昭和62年（1987年）に閣議決定された第4次全国総合開発計画の中で、大都市圏における住宅問題や過密解消の一助として提案されたものです。

平成10年（1998年）に策定された第5次全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」においては、中山間地域を含む農山漁村などの豊かな自然環境を持つ地域を「多自然居住地域」と位置づけ、都市とこれらの地域が連携し、都市的な利便性と自然環境を享受できる自立的な圏域を創造することが目標とされました。この中で、マルチハビテーションは、多自然居住地域と大都市等との交流・連携を深め、地域を活性化させる戦略の一つ、そして多様化する住まい方への新しいニーズに応えるものとして重要な位置を占めるようになりました。

こうした流れを受けて、過疎地域の自立促進を目指すための特別措置を定める「過疎地域自立促進特別措置法」が平成12年（2000年）に制定され、多自然居住地域としての過疎地域の役割と新たな対策の方向性が明確にされました。

マルチハビテーションから交流居住へ

当初は「マルチハビテーション」という言葉が使われていましたが、その後の総務省の調査研究を通じて、「交流居住」という概念へと重心が移っていきます。平成13年（2001年）度の調査では、都市住民が田舎に拠点を持つ主なきっかけが「観光・交流」であること、そして受け入れ側の自治体も地域の魅力を「自然環境の中での生活」と認識していることが明らかになりました。この知見から、多拠点居住の推進にあたっては、単に「住む場所を増やす」だけでなく、地域への「観光」を入り口とし、「交流」を通じて関係を深めていくアプローチが効果的であるという結論に至りました。これにより、施策の名称も実態や推進方向を反映して「交流居住」へと変化していったのです。

交流居住の意義

交流居住は、特に人口減少や高齢化が進行する過疎地域にとって、その持続可能性を高める上で重要な意義を持ちます。地域の活力を維持し、将来的な衰退を防ぐためには、地域外からの新たな人の流れや関わりが不可欠であり、都市住民との積極的な交流はその重要な手段となります。交流居住者の来訪は、地域に多様な視点やスキルをもたらし、地域経済の活性化やコミュニティの維持に貢献する可能性を秘めています。

都市住民側にとっても、交流居住は日々の生活から離れた自然豊かな環境でリフレッシュしたり、趣味や学習に打ち込んだり、地域貢献を通じて自己実現を図るなど、自身の価値観やライフスタイルに合わせて多様な生き方を選択できる場となります。より豊かで充実した生活を送るための選択肢として、その意義は大きいと言えます。

期待される効果

交流居住は、短期滞在型の観光と、生活基盤を全面的に移す定住の中間に位置づけられるため、双方の良い点を併せ持ち、様々な効果が期待されます。

具体的には、以下のような点が挙げられます。

地域との密接な関わり: 一般的な観光客に比べて滞在期間が長く、地域住民との交流も深まりやすいため、地域の文化や生活への理解が進み、より強い関係性が築かれます。これが地域のファンを増やし、継続的な地域支援につながる可能性があります。
地域経済への貢献: 滞在中の消費はもちろん、リフォームや改修など、地域経済に直接的な効果をもたらします。
雇用の場の問題: 交流居住者の多くは都市部に主な生計の場を持ったまま滞在するため、過疎地域側が新たな雇用を創出する必要性が比較的低く、受け入れのハードルが下がります。
多面的な可能性: 地域住民の視点では気づきにくい地域の魅力の再発見、新たな視点からの地域課題解決への貢献、特技や経験を生かした地域活動への参加など、多様な側面から地域に貢献する可能性を秘めています。

これらの効果から、交流居住は過疎地域にとって比較的取り組みやすいながらも、地域に多角的なメリットをもたらしうる施策として注目されています。

他の概念との比較

交流居住と関連する概念として「二地域居住」があります。国土交通省などが推進する「二地域居住」も複数の拠点を持つ生活スタイルを指しますが、総務省の「交流居住」は特に「観光」を地域との最初の接点や関係構築の入り口と捉え、交流の段階を重視している点が特徴です。一時的な観光客から、頻繁に訪れるリピーター、そして将来的には定住も視野に入れる層まで、関わりの深さに応じて柔軟に対応できる考え方として提示されています。

また、対象層についても、「二地域居住」が当初、時間的・経済的な余裕がある団塊世代などを主な対象と想定していたのに対し、「交流居住」は、子育て世代や、農村での暮らしに関心を持つ若い世代など、より幅広い都市住民を対象としている点も相違点として挙げられます。

ただし、これらの概念はいずれも、都市と農山漁村の間での人や情報の流れを促進し、双方の地域に新たな活力を生み出すことを目指しており、大方向性としては共通しています。このため、今後は各省庁間の連携が一層重要になると考えられています。

総務省では、交流居住への関わり方の段階に応じた5分類も提唱しており、それぞれの段階に合わせた情報提供や支援が行われています。

交流居住は、単なる人口移動ではなく、都市と田舎が相互に支え合い、共に発展していくための新しい関係性を築く手段として、今後の日本の地域社会においてますますその重要性を増していくと期待されています。

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