交響曲第0番 (ブルックナー)

交響曲 ニ短調（通称：第0番）

アントン・ブルックナーによって作曲された交響曲ニ短調は、時に「第0番」と称されることがあります。この名称は、彼の作品の中で重要な位置を占めているため、これを聞くことは音楽史の理解において不可欠です。本作は、比較的少数の作品として知られていますが、ブルックナー自身の成長と彼の音楽スタイルを反映した重要な作品として評価されています。

曲の名称について

ブルックナーは、この交響曲に公式の通し番号を付けなかったため、正式には「交響曲ニ短調」と呼ばれています。しかし、彼の後の作品には、ニ短調の第3番や第9番も含まれているため、この作品が混同されることを避けるため、「第0番」や「WAB.100」という番号が一般的に使われるようになりました。特に「第0番」という通称は、ブルックナーが晩年に楽譜に書いた“∀”という記号から派生して名付けられています。

作曲の経緯

この交響曲は1869年に着手され、同年内に完成されたと考えられていますが、初期の構想の段階で作業は1863年から1865年にかけて行われていた可能性も指摘されています。作品が完成した後、当時ウィーン・フィルハーモニーの指揮を務めていたフェリックス・オットー・デッソフに初演を依頼しましたが、彼の厳しい批評によりブルックナーは自信を失い、この作品を発表せずに引っ込めてしまいました。

ブルックナーはまた、作品の改訂をせず、最晩年に自身の若き日の作品を整理する中で、「全く通用しない」や「無効」などの否定的なコメントを自筆で記していましたが、この交響曲については破棄することはせず、結果的に保存されることになりました。

作曲者の意図

ブルックナーが楽譜に記載した記号には様々な解釈があります。特に“∀”の解釈については、単なる0の意味なのか、特定の番号を示しているのかで意見が分かれています。古い学説ではこの交響曲が第1番の前にあたる作品として扱われていましたが、最近の研究では1869年の作曲説が有力とされ、作品としての扱いがかわってきています。

初演とその後

交響曲ニ短調の初演は1924年5月17日に行われました。初めは2楽章のみが演奏され、その後全楽章が10月12日に披露されました。日本初演は1978年に行われ、特に注目を集めました。

音楽の構造

この交響曲は4つの楽章から構成されています。各楽章には独特のキャラクターがあり、全体としてブルックナーの後の作品に見られる特徴をしっかりと備えています。以下に各楽章の詳細を示します。

第1楽章：Allegro

ニ短調、ソナタ形式。主題は弦楽器のトレモロによって提示され、隣接するイ長調の第2主題が柔らかな印象を与えます。荒々しさが特徴の第3主題も存在し、全体の力強さを支えています。

第2楽章：Andante

変ロ長調、ソナタ形式。この楽章は、特にベートーヴェンの影響を受けていることが感じられ、情緒豊かなメロディが展開します。

第3楽章：Scherzo

ニ短調、スケルツォ形式。野性的な主題が変化しつつ進行し、トリオパートでは静穏な雰囲気が現れ、主部に戻ると力強さが強調されます。

第4楽章：Finale

ニ短調からニ長調へと変化する終楽章。序奏から始まり、アレグロ・ヴィヴァーチェとなる中で、フルートのソロが心に残る旋律を奏でて作品を締めくくります。

楽器編成と演奏時間

本作の楽器編成は、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、ティンパニ、弦楽器5部と多彩であり、約46分の演奏時間を要します。

楽譜と録音

現存する楽譜には、初版とノヴァーク版などがあり、これまでに多くの録音が行われていますが、全曲としては第0番が含まれていないことも多々あります。ただし、最近では第0番が全集に収められることも増えています。

まとめ

ブルックナーの交響曲ニ短調は、彼の音楽世界の重要な一側面を示している作品であり、特に交響曲の中では特異な位置を占めいます。音楽の歴史を知る上で、聴く価値のある一曲です。

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