交響曲第1番 (ヴィラ＝ロボス)

交響曲第1番「知られざるもの」

エイトル・ヴィラ＝ロボスが1916年に世に送り出した交響曲第1番は、《知られざるもの》（O Imprevisto）と題された初期の主要作品です。ブラジルの作曲家ヴィラ＝ロボスは、この時期にフランスの作曲家ヴァンサン・ダンディの音楽様式に深く影響を受けており、本作は彼がこの様式で作曲したとされる5つの交響曲の最初の作品群に属します。この交響曲は、彼自身が「Epaminondas Villalba Filho」という筆名を用いて著した哲学的な考察「Argumento」に付随する形で構想されました。

作曲の背景とプログラム

本作の構想自体は、作曲年よりさらに遡る1907年には既に存在していました。ヴィラ＝ロボスは、この交響曲に「Argumento」と名付けられた哲学的なプログラムを付与しました。これは、芸術家の魂とその運命、そして宇宙との間の神秘的な関係性を壮大に描こうとしたものです。しかし、このプログラムに示される思想は非常に難解であり、抽象的であるため、実際の楽曲の楽想と明確に結びつけて理解することは困難であると指摘されています。プログラムの文章は、作曲家の内面的な思索の一端を示すものとしては興味深いですが、音楽作品そのものを読み解く鍵としては限定的な役割しか果たさないと言えるでしょう。このように、難解なプログラムを持ちながらも、音楽自体は初期ヴィラ＝ロボスにおけるダンディ様式の影響を色濃く反映しています。

初演の歴史

交響曲第1番は、完成後すぐに全曲が演奏されたわけではなく、発表までに段階的な経過をたどりました。まず、作品の一部が抜粋される形で聴衆に披露される機会が設けられました。これは1919年9月20日にリオデジャネイロ市立劇場で行われ、イタリアの指揮者ジーノ・マリヌッツィがタクトを執り、Grande Companhia Italianaが演奏を担当しました。そして、作品の全貌が明らかになったのは、その翌年、1920年8月30日のことです。これもリオデジャネイロ市立劇場での演奏会でしたが、この時は作曲者自身であるヴィラ＝ロボスが指揮台に立ち、Orquestra da Sociedade de Concertos Sinfônicos do Rio de Janeiroが演奏を務めました。作曲者は後に本作の楽器編成に若干の変更を加えており、これは作品の完成度を高めるための試みであったと考えられます。具体的には、当初の編成に加えて、タムタム、グロッケンシュピール、そしてスネアドラムといった打楽器が追加されました。

楽器編成

改訂後のこの交響曲の演奏に必要な楽器編成は、比較的規模の大きな三管編成を基本としています。以下の楽器が指定されています。

木管楽器: ピッコロ 2、フルート 2、オーボエ 2、コーラングレ、クラリネット 2、バスクラリネット、ファゴット 2、コントラファゴット
金管楽器: ホルン 4、トランペット 4、トロンボーン 3、チューバ
打楽器: ティンパニ、タムタム、バスドラム、シンバル、トライアングル、スネアドラム、グロッケンシュピール
鍵盤楽器他: チェレスタ、ハープ 2
* 弦楽器: 弦五部（ヴァイオリン第1部、ヴァイオリン第2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

特に打楽器セクションは、後年の改訂でタムタム、グロッケンシュピール、スネアドラムが追加され、色彩的な要素が強化されています。

楽曲構成

この交響曲は、西洋音楽の伝統的な交響曲の形式に従い、全4つの楽章で構成されています。全体の演奏時間は約26分半とされています。各楽章の速度記号は以下の通りです。

1. Allegro assai moderato
2. Adagio
3. Scherzo (Allegro vivace)
4. Allegro con brio

第1楽章は「極めて moderate な Allegro」、第2楽章は緩徐楽章、第3楽章は急速で活発なスケルツォ、そして終楽章は「活気のある Allegro」という構成になっており、それぞれの楽章が異なる性格を持ちながらも、全体として統一感を持たせています。

まとめ

交響曲第1番「知られざるもの」は、ブラジルの偉大な作曲家エイトル・ヴィラ＝ロボスの初期における重要な成果の一つです。ヴァンサン・ダンディからの影響が見られる様式や、自身の哲学論と結びつけられた独創的でありながらも難解なプログラム、そして初演後の楽器編成の改訂など、作品の背景には興味深い要素が多く含まれています。この曲を通じて、ヴィラ＝ロボスが自身の音楽語法を確立していく過程や、様々な思想を取り込もうとする姿勢を垣間見ることができます。彼の広範な作品群の中でも、初期の管弦楽作品として、そして後のブラジル的な作風へと繋がる萌芽を探る上で、研究や演奏の対象として重要な位置を占める作品と言えるでしょう。

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