交響曲第3番 (スタンフォード)

チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードによって1887年に作曲・発表された交響曲第3番 ヘ短調 作品28は、その通称「アイリッシュ」が示す通り、アイルランドの音楽的要素を色濃く反映した作品です。

発表後の評価と影響

この交響曲は、発表されるやいなや非常に大きな成功を収め、スタンフォードに国際的な名声をもたらしました。特にアムステルダムにあるコンセルトヘボウの記念すべきオープニング公演で演奏されたことや、当時著名な指揮者であったハンス・フォン・ビューローやグスタフ・マーラーが自身のコンサートで繰り返し取り上げたことは、その評価の高さを物語っています。ハンブルクやベルリンといった主要都市での成功は、スタンフォードの地位を確立させ、続く交響曲第4番（1889年）の世界初演をベルリンで行うという約束を実現させるきっかけともなりました。スコアの冒頭には、作曲者自身の筆によるラテン語のモットーが添えられています。

楽器編成と演奏時間

この作品は、以下の楽器編成で演奏されます。

フルート：2
オーボエ：2
クラリネット：2
ファゴット：2
ホルン：4
トランペット：3（ただし、第3トランペットは終楽章のみ使用）
トロンボーン：3
ティンパニ
ハープ
弦五部

ハープが編成に含まれている点は、後述する第3楽章の特徴と関連しています。全体の演奏時間は約41分です。

楽曲構成

楽曲は伝統的な4つの楽章で構成されています。

1. 第1楽章 アレグロ・モデラート ヘ短調 4/4拍子
ソナタ形式で書かれており、序奏を置かずに弦楽器群が力強く第一主題を提示して幕を開けます。変イ長調で示される第二主題は、対照的に穏やかな性格を持っています。展開部と再現部を経て音楽は進行し、終盤で速度を上げて（ピウ・モッソ）盛り上がった後、最後はピアニッシモで静かに閉じられます。
2. 第2楽章 アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ ニ短調 9/8拍子
この楽章は、リズミックで躍動的なアイルランド舞曲を思わせる音楽が特徴です。中間部ではニ長調、3/2拍子に変化し、倍のテンポで勢いを維持しながらも、どこか穏やかな表情を垣間見せます。
3. 第3楽章 アンダンテ・コン・モート 3/4拍子
ハープの美しいアルペジオで開始される抒情的な楽章です。ここでは、アイルランドの古い民謡である「ウシュナハの子らの嘆き (The Lament of the Sons of Usnacht)」の旋律が重要な要素として用いられています。この主題は、ブラームスの交響曲第4番第2楽章の主題と類似していることが指摘されていますが、両者の直接的な関連は明確ではありません。また、作曲家アーノルド・バックスも後に自身の作品で同じ旋律を使用しました。
4. 第4楽章 フィナーレ アレグロ・モデラート・コン・フォーコ ヘ短調～ヘ長調 4/4拍子
木管楽器群の力強い響きで開始される、終楽章にふさわしい情熱的な楽章です。この楽章では、「モリー・マカルピン (Molly McAlpin)」と「古き日々を思い出せ、エリン (Let Erin remember the days of old)」という、二つの著名なアイルランド民謡の旋律が引用されています。終盤でヘ長調に転調した後者の旋律が、金管楽器によって高らかに奏でられ壮大なクライマックスを形成すると、そのまま全曲が堂々と締めくくられます。

「アイリッシュ」交響曲は、スタンフォードのアイルランドへの愛情と、それをシンフォニックな形式に昇華させる手腕が見事に結実した作品であり、彼の作品の中でも特に聴衆に愛され続けている一曲です。

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