交響曲第3番 (ドヴォルザーク)

ドヴォルザーク：交響曲第3番 変ホ長調 作品10, B. 34

アントニン・ドヴォルザークの交響曲第3番 変ホ長調 作品10, B. 34は、1873年に作曲された重要な作品です。数多くの交響曲を残したドヴォルザークですが、この第3番は彼の全交響曲の中で、初めて公の場で演奏された（初演された）という記念すべき位置づけを持っています。

作品の背景

本作の作曲は1873年4月に着手され、同年7月4日に完成されました。この時期、ドヴォルザークは彼の讃歌『白山の後継者たち』（作品30, B. 27）の成功によって、作曲家としての自信を深めていました。さらに、11月17日に控えていた結婚を前に、公私ともに気力が満ち溢れている充実した時期でした。このような背景が、作品全体に意欲的で活気に満ちた響きを与えています。音楽的な特徴としては、当時ヨーロッパの楽壇で大きな影響力を持っていたリヒャルト・ワーグナーからの影響を積極的に取り入れている点が挙げられます。これは、彼が自己の音楽語法を模索し、新たな表現を追求していたことの表れと言えるでしょう。

歴史的経緯

この交響曲は、ドヴォルザークがオーストリア政府の開催する奨学金制度に応募する際に提出されました。その内容が、当時ウィーンの有力な音楽評論家であったエドゥアルト・ハンスリックをはじめとする審査員たちの高い評価を得たことで、ドヴォルザークは1875年から年間400グルテンの奨学金を受けられるようになります。これは、彼の経済状況を安定させ、その後の創作活動を大いに後押しする重要な出来事となりました。この作品が、彼のキャリアにおける大きな転換点の一つであったと言えるでしょう。

作品の初演は、作曲の翌年である1874年3月29日、プラハで行われました。指揮台に立ったのは、ドヴォルザークを初期から支援し、師と仰いだ作曲家ベドルジハ・スメタナでした。しかしながら、この作品が楽譜として出版されるまでには長い年月がかかりました。出版が実現したのは、ドヴォルザークの死去から8年後の1912年のことです。さらに複雑なことに、当時の出版事情により、現在「第5番 ヘ長調」（作品76, B. 54）として知られている別の交響曲が、なぜか「第3番」として先に世に出ていました。そのため、本来の第3番である本作は、当初、番号を持たない作品として出版されるという異例の状況となりました。

楽器編成

この交響曲は、比較的充実したオーケストラのために書かれています。

ピッコロ
フルート2
オーボエ2
コーラングレ
クラリネット2
ファゴット2
ホルン4
トランペット2
トロンボーン3
チューバ
ティンパニ
トライアングル
ハープ
弦五部（ヴァイオリン第一部、ヴァイオリン第二部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

特に、通常編成に加えてコーラングレ、チューバ、ハープ、トライアングルが含まれている点が特徴的です。

楽曲構成

交響曲第3番は、全3楽章で構成されており、演奏時間は約35分です。ドヴォルザークは生涯に9曲の交響曲を完成させましたが、全9曲の中で3つの楽章のみで構成されているのは、この第3番だけというユニークな特徴を持っています。他の交響曲は通常4楽章で書かれています。

第1楽章：アレグロ・モデラート

変ホ長調、8分の6拍子で書かれたソナタ形式の楽章です。ドヴォルザークが初期に作曲した交響曲（第1番から第6番）の第1楽章の中で、この曲のみ提示部の反復指定がありません。また、形式的にはソナタ形式を取りながらも、明確に独立した第2主題の提示が控えめで、再現部では第2主題らしき要素が現れないため、全体として単一主題的な色彩が強い楽章と言えます。

第2楽章：アダージョ・モルト、テンポ・ディ・マルチャ

嬰ハ短調、4分の2拍子による三部形式（A-B-A）の緩徐楽章です。「テンポ・ディ・マルチャ」（行進曲のテンポで）という指示があり、荘厳で沈鬱な雰囲気の中に、行進曲風のリズムが織り込まれています。

第3楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ

変ホ長調、4分の2拍子の活気に満ちた終楽章です。ロンド形式（A-B-A-B-A-コーダ）に基づいていますが、展開部の要素も含まれる複雑な構成を持っています。祝祭的な響きとボヘミア的な要素が融合した、華やかで力強いフィナーレです。

この交響曲第3番は、ドヴォルザークが自身の作曲家としての地位を確立し、独自のスタイルを模索していた時期の重要な足跡であり、その後の彼の傑作群への序章とも言える作品です。

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