交響曲第7番 (ショスタコーヴィチ)

ショスタコーヴィチ交響曲第7番「レニングラード」

ドミートリイ・ショスタコーヴィチが作曲した交響曲第7番ハ長調作品60は、彼の作品の中でも特に有名なものの一つです。通称『レニングラード』として知られています。

作曲の背景

この交響曲は、第二次世界大戦中のレニングラード包囲戦という極限状態の中で作曲されました。ナチス・ドイツの侵攻に対する抵抗と、故郷への愛、そして戦争の悲劇が、壮大な音楽を通して表現されています。初演当時から、その強いメッセージ性は共産圏だけでなく、非共産圏でも高く評価されました。

しかし、ソ連のプロパガンダの要素が強く感じられる部分もあり、「壮大なる愚作」という批判も存在しました。1970年代後半に発表された「ショスタコーヴィチの証言」によって、この作品がスターリン体制によって破壊されたレニングラードを意味するという解釈が広まり、評価が見直されるようになりました。

作曲者の言葉

ショスタコーヴィチは、作品完成直後の1941年12月27日に、疎開先で隣人に「私はこの交響曲で、わが国民の苦悩、わが国民の苦難を描こうとした」と語っています。

同年9月17日のラジオ放送では、「人類の偉大な天才ウラジーミル・イリイチ・レーニンにささげる私の交響曲第7番を完成させたい」と述べています。また、故郷レニングラードへの想いを熱く語り、市民の前でこの作品を発表することを誓いました。

作曲の過程

作曲は、レニングラード包囲前の1941年8月頃から開始され、12月17日に完成しました。当初は、ダヴィデの詩篇に基づく曲を作曲していましたが、構想を変更し、交響曲第7番の一部となる曲を書き始めました。当初は単楽章の予定でしたが、最終的に4楽章構成となりました。

初演

世界初演は1942年 3月5日、クイビシェフで行われました。ソビエト政府は、この初演を国家的なイベントと捉え、プロパガンダに利用しました。楽譜は「国家機密」扱いとされ、マイクロフィルムに収められた後、連合国側へ送られました。

国外初演は1942年 6月22日にロンドンで、アメリカ初演は同年7月19日にトスカニーニ指揮で行われ、全世界にラジオ中継されました。

レニングラード初演は、1942年8月9日に行われました。演奏を担当したカール・エリアスベルクは、演奏家不足に悩まされましたが、前線から呼び戻された軍人音楽家によってオーケストラが編成されました。

楽曲構成

演奏時間は約75分。各楽章には、作曲者自身によって廃案とされた副題が付けられていました。

第1楽章 Allegretto（戦争）
生命力に満ちた第1主題と、澄み切った美しい第2主題が対比的に描かれます。展開部では、『ボレロ』に影響を受けた「戦争の主題」が繰り返され、全合奏による暴力的な侵攻が表現されます。再現部は葬送行進曲となり、戦争の犠牲者へのレクイエムが奏でられます。
第2楽章 Moderato. Poco allegretto（回想）
哀愁を帯びた主題が印象的なスケルツォ。過去の喜びと悲しみが入り混じった感情が表現されています。金管の激しい咆哮がクライマックスを迎え、静かに終わります。
第3楽章 Adagio（祖国の大地）
叙情的で明るいアダージョ。崇高なコラール主題と、陽気な旋律が組み合わさり、祖国への愛が表現されています。
第4楽章 Allegro non troppo（勝利）
勝利のフィナーレ。序奏に登場する同音連打は、モールス信号の「V」（Victory）を表すとされています。第1楽章の第1主題が再現され、勝利が宣言されます。

評価

バルトークは、この作品を「国家の奴隷にまでなって作曲するものは、馬鹿」と評しました。しかし、現在では、ショスタコーヴィチがナチス・ドイツだけでなく、ソ連政府の暴力をも告発しているという説が有力になりつつあります。そのため、歴史的な記念碑的作品として再評価されています。

他ジャンルでの使用

映画「レニングラード攻防戦」や、アリナミンVのテレビCMなど、様々なメディアで使用されています。