交響曲第92番 (ハイドン)

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが1789年に完成させた交響曲第92番ト長調 Hob. I:92は、しばしば『オックスフォード』の愛称で親しまれています。この作品は、フランスのドーニ伯爵の依頼で作曲された3つの交響曲（第90番から本作まで）の一つであり、これらはまとめて『ドーニ交響曲』とも呼ばれています。中でも第92番は、今日最も演奏される機会が多い作品です。

楽曲の全体像

全体を通して、ハイドンらしい素朴な温かさと、おおらかなユーモアに満ちています。しかし、その音楽には単なる親しみやすさにとどまらない、緻密な転調やリズムの創意工夫が随所に見られます。

『オックスフォード』の愛称について

この交響曲が『オックスフォード』と呼ばれるのは、1791年にハイドンがオックスフォード大学から名誉博士号を授与された際の式典で、彼自身がこの曲を指揮したという伝えられるエピソードに由来します。しかし、厳密にはこの愛称は少し誤解を含んでいます。なぜなら、この曲は元々、それよりも前にパリでの初演のために作曲され、かつて『パリ交響曲』を委嘱したドーニ伯爵に献呈されていたからです。ハイドンが最初のロンドン訪問直後に学位を授与された際、彼はまだ後に名声を博す『ロンドン交響曲』シリーズには着手していませんでした。そのため、学位授与式にはその時点での最新作であるこの交響曲を持参したと考えられています。

オックスフォード大学での出来事は、50代後半を迎えたハイドンが国際的な作曲家として成功を収めた象徴的な出来事でした。名誉博士号の授与は、音楽博士であったチャールズ・バーニー博士の提案によるものです。ハイドンのロンドンからの到着が遅れたため、十分なリハーサル時間が取れず、地元オックスフォードの演奏者が既に慣れていた曲が演奏されることになりました。ただし、実際に式典後の演奏会でどの交響曲が演奏されたのかについては、確かな記録がないとする説も存在します。

実際には、ハイドンは学位取得のため、オックスフォードで合計3回の演奏会を指揮することを求められていました。そのうち2日目の朝にリハーサルが行われ、同日夜に『オックスフォード』として知られるこの交響曲が演奏され、以前ロンドンでヨハン・ペーター・ザーロモンが主催した演奏会と同様に高い評価を得たとされています（ザーロモンは、後にハイドンがロンドンで発表する12曲の交響曲シリーズの演奏会を主催することになります）。

また、現在ではほとんど使われませんが、かつては『Q字』（Letter Q）という愛称で呼ばれることもありました。これは、ハイドンの存命中にロンドンのフォースター社が出版したハイドンの交響曲選集第2集（全23曲）において、整理番号としてアルファベット一文字が各曲に付されていた名残です。

楽器編成

フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ2、弦五部。

楽曲構成

全4楽章構成で、演奏時間は約27分です。

第1楽章 アダージョ - アレグロ・スピリトーソ

ト長調、4分の3拍子。ソナタ形式で書かれています。ゆったりとしたアダージョの序奏部は主調であるト長調から始まり、平行短調を経て属調へと転調していきます。主部のアレグロ・スピリトーソでは、第1主題が主調でありながら属七の和音で開始されるという、当時の交響曲としては非常に珍しい手法が用いられており、ハイドンの個性的な側面を示しています。この第1主題の動機が繰り返し現れるため、この曲は単一主題による交響曲だと論じられることもあります。第1主題提示後、属調に転調し、第2主題が現れます。第2主題は序奏部の動機から派生しており、属調で演奏されます。提示部の終わりまで属調が保たれます。展開部では、提示部で提示された主題や動機が巧みに展開され、装飾が施されます。単なる主題の反復にとどまらず、休符や沈黙、あるいは主題を変形させたり、意図的に流れを脱線させたりする部分が盛り込まれており、こうした多様な展開技法はハイドンの独創性を示すものです。さらに、古い時代の対位法的な手法も効果的に用いられ、楽曲全体の形式美と深みを高めています。

第2楽章 アダージョ

ニ長調、4分の2拍子。三部形式による、穏やかで歌曲的な楽章です。しかし、中間部には激しく情熱的な短調の部分が挿入されており、この対比にハイドンの非凡な作曲能力が表れています。

第3楽章 メヌエット：アレグレット - トリオ

ト長調、4分の3拍子。複合三部形式（A-B-A形式）です。メヌエット部とトリオ部はいずれも二部形式で書かれており、それぞれが繰り返されます。通常、メヌエットは4つの楽節で構成されることが多いのですが、この楽章のメヌエットはより面白く多様な展開を見せるために6つの楽節から成り立っており、シンコペーションや全休止といった、当時の基準からすると非常に珍しい手法が大胆に取り入れられています。

第4楽章 フィナーレ：プレスト

ト長調、4分の2拍子。ソナタ形式で書かれています。第1楽章と比較してより速く、短い楽章ですが、聴き手に緊張感と解放感をもたらしながら、クライマックスへと向かっていく推進力に満ちています。

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