京都大学霊長類研究所

京都大学霊長類研究所：その歴史、研究、そして終焉

京都大学霊長類研究所（霊長研）は、1967年から2022年3月まで存在した、霊長類学の総合研究を担う京都大学の附置研究所でした。設立当初から、ヒトを含む霊長類の学際的な基礎研究を特色とし、国内外の研究者にとって重要な拠点でした。しかし、2022年4月に組織改編され、その役割は新しい研究センターへと引き継がれることとなりました。

設立の背景と初期の研究

霊長研の起源は、1950年代に京都大学の今西錦司が始めた霊長類研究グループに遡ります。今西らのグループは、ニホンザルやチンパンジーの生態研究を通じて、霊長類学の基礎を築きました。特に、相互作用や社会構造を重視した系統比較研究は、日本の霊長類学における重要な進展でした。

1967年、日本学術会議の勧告を受けて、霊長類研究所の必要性が認められました。これにより、霊長研は日本で唯一の霊長類学総合研究拠点として、全国の研究者の受け皿となりました。設立から50年以上にわたり、学際的かつ先導的な研究が活発に行われ、国内外の霊長類研究に大きな貢献を果たしました。

組織の変遷

霊長研は、設立当初から様々な研究部門を設置し、時代とともに組織を拡大してきました。初期には、形態基礎研究部門や神経生理研究部門が設置され、その後、心理研究部門や社会研究部門など、研究分野の多様化に対応して部門が増設されました。1993年には、研究部門が4つの大部門に再編され、思考言語分野も設置されました。また、サル類保健飼育管理施設を改組し、人類進化モデル研究センターも設立されました。2006年以降は、寄附研究部門も設置され、研究の幅を広げました。

共同利用・共同研究拠点としての役割

2010年から2022年まで、霊長研は共同利用・共同研究拠点「霊長類学総合研究拠点」に認定され、全国の研究者に対して施設や資源を提供していました。この制度により、国内外の研究者が集まり、共同で研究を進めることができました。霊長研は、日本の霊長類研究を牽引する重要な役割を担っていました。

不祥事と組織改編

しかし、霊長研は2022年3月に廃止されました。その背景には、研究費の不正使用や論文捏造といった不祥事がありました。2006年から2012年まで所長を務めた研究者による研究費の不正使用が発覚し、約5億円の研究費が不正に支出されていたことが明らかになりました。また、元教授による論文捏造も発覚し、研究倫理が問われる事態となりました。これらの不祥事を受け、京都大学は霊長研を解散し、新しい研究センターへと組織改編することを決定しました。

新しい研究センターへの移行

霊長研の廃止に伴い、「ヒト行動進化研究センター」「野生動物研究センター」「生態学研究センター」「理学研究科生物科学専攻」が設立されました。これらの新しいセンターは、霊長研が培ってきた研究成果やノウハウを引き継ぎ、さらに発展させていくことが期待されています。

研究分野と教育

霊長研は、進化系統、社会生態、行動神経、分子生理などの研究部門を持ち、霊長類の進化、生態、行動、生理機能などを幅広く研究していました。また、京都大学大学院理学研究科生物科学専攻霊長類学系の教育にも協力しており、多くの研究者を育成しました。霊長研は、日本の霊長類学の発展に不可欠な存在でした。

過去の事故と事件

霊長研では、1989年に飼育されていたチンパンジーが脱走し、児童を襲撃する事件が発生しました。この事件は、霊長類の飼育管理の重要性を再認識させる契機となりました。また、不祥事による組織改編は、研究倫理の重要性を改めて問い直す出来事となりました。

結論

京都大学霊長類研究所は、日本の霊長類学を牽引してきた重要な研究拠点でした。設立から50年以上の歴史の中で、数多くの研究成果を生み出し、国内外の研究者に貢献してきました。組織改編によって、その名前はなくなりましたが、霊長研が培ってきた知識と経験は、新しい研究センターに引き継がれ、今後の霊長類学の発展に貢献していくことでしょう。その歴史は、研究倫理の重要性と組織運営の難しさを物語る教訓として、今後も語り継がれるはずです。

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