人国記

人国記：武士の気風を描いた地誌から近代の人物紹介へ

『人国記』は、室町時代末期に成立したと考えられている地誌です。日本各地の国（令制国）ごとに、その地域の人々の風俗、特に武士の気風について記述した書籍であり、当時の社会や文化を知る上で貴重な資料となっています。

成立と著者

『人国記』の著者や成立年代は明確にはわかっていません。古くから、鎌倉幕府の5代執権である北条時頼が諸国を遍歴した際に著したという説がありますが、現在では室町時代末期、すなわち戦国時代の成立と見なされています。戦国時代の武将である武田信玄が本書を愛読したという逸話も残されています。

書籍の構成と内容

『人国記』には、特定の個人に焦点を当てた記述は見られません。地域ごとの一般的な風俗や気質、特に武士階級の精神性や行動様式が描かれています。これにより、当時の社会構造や価値観を理解する手がかりが得られます。

江戸時代の改編と出版

江戸時代に入ると、『人国記』は関祖衡によって改編され、地図や解説が追加されました。この改訂版は、1701年（元禄14年）に江戸の須原屋茂兵衛から出版され、広く読まれるようになりました。その後、伴信友による校閲を経た刊本も出版されています。

近代以降の「人国記」

近代になると、「人国記」という書名は新たな意味合いを持つようになります。横山達三（横山健堂）は、『読売新聞』や『日本及日本人』に連載した記事をまとめ、『新人国記』と題して1911年（明治44年）に出版しました。これは、著名人の紹介記事を出身地である都道府県ごとにまとめたものでした。

その後、1913年には角田浩々歌客が『漫遊人国記』を、1915年には禿氏岳山が『女人国記』を出版するなど、「人国記」を書名に含む書籍が様々な形で出版されるようになりました。これらの書籍は、特定の地域やテーマに焦点を当てた人物紹介集として、広く読者に親しまれました。

このように、『人国記』は、室町時代末期の地誌から、江戸時代の改編を経て、近代の人物紹介へと形を変えながら、その名前を受け継いできました。それぞれの時代において、人々の関心や社会の変化を反映した多様な「人国記」が登場し、日本の文化史に独特の足跡を残しています。

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