人里植物

人里植物（ひとざとしょくぶつ、Ruderal plants）とは、生態学の分野で使われる言葉で、主に農耕地以外の、人間活動による頻繁な攪乱を受ける場所に生育する植物の総称です。特定の分類学上のグループではなく、生育環境や生態的な特徴によって分類されます。英語の Ruderal plants の訳語として使われ、「荒地植物」や稀に「汚植物」とも呼ばれます。

生育する環境

人里植物は、常に人間の活動によって植生が破壊されたり、土壌が変化したりするような場所によく見られます。その代表的な環境には以下のようなものがあります。

道路やその脇
空き地、工事現場
建物の壁や屋根、廃墟
納屋や家畜小屋の周辺
ごみ捨て場、盛り土
鉄道線路沿い、側溝

これらの場所は、踏みつけられたり、掘り返されたり、様々なものが捨てられたりといった、予測しにくい強い人為的な影響が繰り返し加わるという共通点があります。

「人里植物」という言葉の背景

「人里植物」という訳語は、生態学者である沼田真氏が1962年に、英語の Ruderal plants に対して提唱し、広く普及しました。Ruderal plants は元来、農耕地ではない、路傍や空き地などの人為的攪乱地を指す言葉でした。

しかし、「人里植物」という言葉が持つ「人里」のイメージから、原語 Ruderal plants の意味する範囲との間に微妙なズレが生じているという指摘があります。例えば、農地や牧草地で行われる定期的な管理（耕作や刈り取り）は、生態学的には Ruderal plants が生育するような「予測不能で強い攪乱」とは性質が異なると考えられますが、「人里」の植物としてこれらを含めてしまう解釈があります。一方で、Ruderal plants に含まれる都市部の多くの帰化植物が、「人里植物」という言葉から連想されにくいという側面もあります。このような訳語の範囲に関する議論から、 Ruderal plants の訳語として「荒地植物」を用いる研究者もいます。

人里植物の生態的特徴

人里植物に分類される種は、攪乱が多い厳しい環境でも生存・繁殖するために、いくつかの共通した生態的特性を備えています。

成長の速さ: 根や地上部の成長が非常に速く、攪乱後すぐに場所を占有し、競争相手よりも早く生育できます。
多量の種子生産: 一つの個体が膨大な数の種子を作ります。これにより、個体が失われるリスクの高い環境でも、多くの種子が残り、次の世代へと繋がる確率を高めます。これは、不安定な環境でのリスク分散戦略です。
発芽の容易さ: 種子が発芽するために必要な環境条件があまり厳しくありません。多様な土壌や光、水分の条件下で発芽しやすく、様々な攪乱地に適応できます。
低い菌根依存度: 多くの植物が共生する菌根菌への依存度が低い傾向があります。これは、攪乱によって土壌環境や菌類相が不安定になりやすい状況でも、安定して生育できる能力を示しています。

これらの特性は、生態学でいう「r-戦略」を持つ生物の特徴と重なります。r-戦略生物は、環境の変化が激しく予測しにくい場所で、素早い成長と多産によって数を増やすことに長けています。

代表的な種類

日本でよく見られる人里植物の例としては、以下のようなものが挙げられます。

アレチノギク
アレチウリ
アレチヌスビトハギ
オオバコ
ハルジオン
ミドリハコベ

これらの植物は、都市部や農村部の身近な場所で、強靭な生命力をもって生育しています。

関連項目：シナントロープ、里山

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