人間不平等起源論

人間不平等起源論

『人間不平等起源論』は、哲学者ジャン・ジャック・ルソーによって1755年に発表された、政治哲学の古典的な著作です。正式なタイトルは『人間の間の不平等の起源と基盤についての論述（ディスクール）』です。本書の中でルソーは、人間社会における不平等がどのように形成されたのかを考察し、自然状態における人間の生活とは何であったのか、社会が発展することによってどのように不平等が生じたのかを論じています。

経緯

ルソーは1750年に執筆した『学問芸術論』がディジョンのアカデミーの懸賞に入選し、大きな評価を得ました。その後、彼は様々な論争に巻き込まれながら思想を深化させていきました。1753年11月には再びディジョンのアカデミーから「人々の間の不平等の起源とその自然法による是認の可能性」についての懸賞論文の募集があり、ルソーはこれに応募しました。本書はこの論文として作成され、1754年には落選を発表されましたが、1765年にはジュネーヴ共和国への献辞を添えて出版されました。

構成

本書は大きく二つの部分に分かれています。第一部では「自然状態」として描かれる、階層や不平等が存在しない人間の原始的な姿が考察されます。第二部では、社会が形成され高度化するにつれて不平等がどのように生まれ、成長するのかが詳述されています。

不平等の発展段階

社会状態の発展は次の四つの段階に分類されます：
1. 遊牧段階 - 協力の始まりを示す過渡的な時期。
2. 狩猟・採集・定住段階 - ここで社会が形成され、不平等の根源が見え始める。
3. 農耕・冶金段階 - 所有権や分業が生まれ、富の蓄積が進むことで格差が一層深まる。
4. 専制段階 - 富者と貧者の対立が明確になり、不平等が極致に達する。

これらの段階を通じて、ルソーは不平等がもたらす影響、さらには自然法に基づいて不平等を是正する必要性を強調しています。

内容の考察

ルソーは本書の中で、元々自然状態にあった人間は言語や教育、社会的地位を持たなかったため、不平等は存在しなかったと説いています。しかし、人間が理性を得て協力し始めると、社会に不平等が生まれます。法律や所有権の導入により、家族や農業が形成され、その結果として不平等が発展します。さらに、為政者という存在が樹立されることで不平等は固定化されます。

社会制度が整備される過程で、生じる不便が自然状態よりも大きくなることに気づいたルソーは、人為的に許容される不平等が自然法に反するものであれば、それは受け入れるべきではないと主張します。

日本語訳

本書は多数の翻訳が存在し、代表的なものには本田喜代治・平岡昇訳（岩波文庫、1972年）、小林善彦訳（中央公論新社、中公クラシックス、2005年）などがあります。

『人間不平等起源論』は、ルソーの思想における重要な位置を占めており、社会契約論など後の著作へも影響を与えました。この著作は、今日においても人間の不平等や社会に対する洞察を提供する重要な文献となっています。

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