人間力

人間力とは

「人間力」とは、社会生活を円滑に送り、自立した個人として人生を切り開いていくための総合的な能力を指します。これは単に知識やスキルだけではなく、倫理観、コミュニケーション能力、自己制御力など、多岐にわたる要素が組み合わさって形成されるものです。元々は、1980年代に組織革新研究会を主宰する藤田英夫氏が提唱した概念で、その後、行政や教育機関などでも用いられるようになりました。

概要

「人間力」という言葉は、当初、藤田英夫氏が自身の人間観や仕事観に基づいて使用していました。1989年に出版された著書「状況が人を動かす」では、具体的な事例を交えて「人間力」について解説されています。その後、若者言葉のように一般的に使われるようになり、行政の諮問会議などでも、社会で生きていく上で必要となる総合的な力として認識されるようになりました。

人間力戦略研究会の座長を務めた市川伸一氏は、人間力について「確立された定義は必ずしもない」としながらも、「社会を構成し運営するとともに、自律した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義しています。ただし、この定義には曖昧さが含まれており、人間力という概念を厳密に規定することではなく、教育の目標を明確にし、具体的な教育環境を構築していくことが重要であると述べています。

また、人間が持つ様々な力（体力、学力など）を指す場合や、「人間味」「人間性」といった言葉との違いを指摘する意見もあります。言語学的には「人間力」という言葉自体が冗長であるという批判もあり、使用する人の観点によって意味合いが変わる可能性があると指摘されています。

定義

内閣府の人間力戦略研究会は、「人間力」を「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義しています。この定義は、曖昧さを残しつつも、人間力という言葉を通して教育の目標を再考し、具体的な教育環境の構築を促すことを目的としています。

人間力のモデル

人間力は、以下の3つの要素から構成されると考えられています。

知的能力的要素：基礎学力、専門的な知識・ノウハウ、論理的思考力、創造力など。学校教育を通じて習得される基礎的な能力に加え、応用力や発展的な思考力が含まれます。
社会・対人関係力的要素：コミュニケーションスキル、リーダーシップ、公共心、規範意識、他者を尊重し高め合う力など。社会生活において他者と協調し、良好な人間関係を築くために必要な能力です。
自己制御的要素：意欲、忍耐力、自分らしい生き方や成功を追求する力など。目標を達成するために、自己をコントロールし、困難に立ち向かうための能力です。

これらの要素をバランスよく高めることが、人間力を高めることにつながると考えられています。

人間力を発揮する活動

人間力は、以下の3つの側面で発揮されます。

職業生活面：仕事における活動。職業人としての責任を果たす上で、人間力が重要な役割を果たします。
市民生活面：社会参加における活動。地域社会に貢献し、市民としての責任を果たすために人間力が求められます。
文化生活面：知識や教養を高め、文化的活動に参加する上での活動。豊かな人間性を養うために人間力が必要です。

連携・協力

人間力は、学校、家庭、地域、産業界など、様々な場所で段階的かつ相互的に醸成されます。そのため、人間力を高めるためには、これらの各機関が連携し協力することが不可欠です。

行政における動向

「人間力」という言葉は、2002年に経済財政諮問会議が発表した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」で初めて用いられました。その後、内閣府の人間力戦略研究会が設置され、人間力に関する議論が活発化しました。文部科学省、厚生労働省、経済産業省などの各省庁も、「人間力」を政策に取り入れ、人材育成に取り組んでいます。

ただし、「人間力」という言葉の解釈や使われ方は、各省庁や立場によって異なり、一部では、積極的な使用を避ける動きも見られます。また、「人間力」という言葉の推進者として、政治家やスポーツ監督などが挙げられます。

概念を推進した人々

中山成彬（衆議院議員）：教育分野における人間力向上を提唱。
山本昌邦（サッカー指導者）：オリンピックでの人間力の重要性を強調。
原辰徳（プロ野球監督）：選手の人間力に着目し、精神的な強さを評価。
島岡吉郎（大学野球監督）：人間力重視の野球指導を実践。

まとめ

「人間力」は、社会で生きていく上で必要な総合的な能力であり、単なる知識やスキルを超えた、人間としての深みや強さを表す言葉です。行政や教育現場だけでなく、社会全体でその重要性が認識され、人材育成の鍵となる概念として注目されています。

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